[コメント] 終戦秘話 黎明八月十五日(1952/日)
後に岡本喜八が撮った『日本の一番長い日』は、この緊張感のない弛緩した作品に発奮したせいなのか?それとも終戦を知った民衆の笑顔に違和感を覚えたからなのか?いずれにせよ、このちょっと左気味の本作も戦後直後の「空気」を表している。
20日間もの日々を時系列に描き、さらに市民レベル・政治家レベルと欲張った為、エピソードは細切れで緊張感は伝えきれていない。映画としても記録用途としても完成度は低くなった。
そして、切迫感のない閣議の様子は、同時刻に行われている広島・長崎の惨状や満州での混乱、各地の空襲での死を描かないことで、その切迫感の無さが皮肉にも強調される画になった。そしてその画から伝わってくる事は、たったひとりの天皇の為に(天皇制か)ずるずると日本人の死体が増えていったんだという事実だろうか。
また、民主的な登場人物たちの造形やら描写は新鮮な感もあるが、それは戦後の修正教育・修正報道を受けてこその描き方であることが匂ってくる。極めつけはラスト、戦争が終わり満面の笑みで喜ぶ子供達だろう。
まるで戦勝国の子供達の姿かと思うような喜びようだ。しかし、これもまた真実の光景に違いない。アノ戦争においては、日本の民衆は皆被害者だったのだという感覚。これもまた当時の「空気」を正しく描いているのだと思う。それを否定するつもりなんてない。ただ、違和感というか消化不良の思いが湧き上がってくるのは止められない。
そういえば、本作での御前会議の場面では当時の映画のお約束として「天皇の顔」は写されていない。これも時代の約束であり、描けない・描いちゃいけないというのが「空気」だったんですよね。
やはり違和感が残ります。岡本喜八が同じ素材でアレだけの作品を作っておきたくなる気持ちが良く判ります。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。