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[コメント] クライマーズ・ハイ(2008/日)

最近すっかり廃れてしまった群像劇。新鮮な思いで観られました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 1985年に起こった史上最大の航空機事故と言われる日航機123便の墜落事故に題を取った横山秀夫の小説の映画化。

 この事故は単に国内最大の航空機事故というだけでなく、歌手の坂本九、女優の北原遥子、阪神タイガース社長の中埜肇などなど、業界の著名人も数多く搭乗しており、日本経済にも大きな影響を与えた事故だった(丁度バブルに浮いていた時代だったから、影響は瞬間的だったが)。

 そんな時、私は丁度家族旅行中。旅館のテレビでこの報道を見たものだから、今でも克明にその時のことを覚えている。

 それで本作だが、映画としてはかなり水準が高く作られている…というか、水準云々ではなく、日本で群像劇を作ろうとする監督がまだいたのか!というところにちょっと感動を覚えてしまった。かつて大御所と呼ばれた日本の監督はほとんどみんな群像劇に挑戦していた。勿論その中には成功もあれば失敗もあるのだが、とにかく役者が豪華で、彼らを見ているだけでも楽しい。と言うものが多い。だが近年では三谷幸喜が『THE有頂天ホテル』で試みたくらいで、他にやる人が少ない。単に予算の関係だってこともあるだろうけど、それだけ実力のある監督が少なくなったのも事実だろう。役者が多くなると、それだけ物語のコントロールが難しくなり、ぶれずに一本筋の通った物語が作られにくくなる。それは監督にとってももの凄い労力だし、その割に酬われにくい。結果、冒険をしようとはしなくなってるのかもしれない。

 そう言う意味では、敢えてそう言う困難な作りに挑戦しようとした原田監督に拍手を持って迎えたい。色々脇道はあるにせよ、それらをひっくるめてしっかり一本の作品に作り上げてくれた実力は間違いなく本物だ。

 主人公の悠木にスポットを当てつつも、脇の人間の描写が一々細かく、個性をしっかり出してくれている。特に妙に神経質な堺雅人の演技は特筆もので、この人の不安定な表情の演技あってこそ、どっしりと構えなければならない。と終始自分に言い聞かせてるかのような堤の演技が映えるというもの。様々なところで揺れつつも、それでも自分を見失わないように。その努力こそが見所。

 それと1980年代の雰囲気も同時にしっかり伝えてくれているのも重要。1980年代は軽佻浮薄がもてはやされた時代だが、それは同時に、その社会を支えている重い人間がいた。という事。戦中派でやくざまがいの人間が支えてこそ、80年代の時代があったのだ。その意味で山崎努は良い役やっていたね。ああいったパワーの固まりで傍若無人なカリスマ社長があの時代には確かに存在したのだ。少なくとも時代の息吹というものを捉えてくれているだけでも良い感じ。一方で、もうちょっと時代の軽さも対比的に描いてくれればもっと良かった。

(評価:★4)

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