[コメント] クライマーズ・ハイ(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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表題とモチーフとのリンクが薄く、“2007年”のシーンが挟まるたびにテンションが下がったのが残念。余計な枝葉とは言わないまでも、「登山」と「報道」が映画の両輪になりえていないので物語への没入を妨げられた。もっとも、『クライマーズ・ハイ』という表題から勝手に「記者が御巣鷹山に登る話」と思い込んでいた部分もあるのだけれど。
とはいえ、未曾有の大事故を目の前にした報道局の話としては、すごく面白かった。ひとりひとりのキャラが立っているし、力の入った役者陣の芝居を揺らしたカメラで捉えた演出も迫力充分。特に堺雅人は冒頭の現場アタックから宿屋での裏取りまで、終始安定感のある“揺さぶり”をかけてくれた。最後の悠木デスクの決断が説得力を持ちえたのは、間違いなく佐山(堺)の緻密な人物描写によるものだろう。バシッとした役者がビシッとした演技をぶつけあう劇は見ていてとても気持ちがいいものです。
ところで。つれづれに余談。
事故当時私は小学校4年生で、たぶん人生の中で最初に「すごいことが起こった」という認識を持った“他人事”が、この事故だったように思う。だからこの事故はやけに印象深くて映画も初日に観に行ったのだけれど、この映画は、いまだ完全には明らかになっていない事故原因についてほとんどスルーしている。過去に123便がシリモチ事故を起こしていたことが少しだけ語られたけれど、あくまで「事故後一週間」で得られた情報のみを提示する。
それはそれで物語のリアリティなのだけれど、例えばこれが架空の事故を描いたものだとしたら、誰かが「圧力隔壁だ」と言ったときに「お!真実に近づいてきた!」という緊迫感は得られないわけで、観客の多くがある程度事故について知っていることが、プロットを構築する上での前提条件になっているわけだ。
つまりは、23年という期間と、新聞社という当事者から少し離れた舞台でもって、ようやく映画はこの事故を消化し始めたのかなぁ、ということを考えたんです。この事故の、テレビやネットで何度か流されたコクピット内の音声なんて、誤解を恐れずに言えば、すごく“劇的”なものだった。例えば今後何年か、何十年かたって、日航123便の機内が映画の舞台になるようなこともあるのかもしれない。そしたら、どんな映画になるのだろう。『ユナイテッド93』みたいかもしれないし、もしかしたら『タイタニック』かもしれない。主人公は機長だろうか、CAだろうか、生存者だろうか。いつか誰かがきっとそういう映画を作ると思うけど、そういう現実の大惨事を扱った物語って、すごく作家性が問われる作業だよなぁとか、物語と現実の距離感とか、そのときにそれを物語る必然性とか、そういうことを考えました。つれづれに。
あと、渋谷TOEIは端っこに座ってるとセリフ全然聞こえないね。空いてたから席移れたけど、混んでたら1800円損するとこだった。
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