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[コメント] カメレオン(2008/日)

主人公の「カメレオン」っぷりも大して物語に寄与せず、その胡散臭さも懐古的なキャラクタリゼーションの域を出ていないが、アクション演出に関してだけは、少なくとも「アクション」を演出せんとする者は全員がこれを観よと言いたくなる卓越性。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「カメレオン」という題名が冠せられているのも、インチキ占い師・佳子(水川あさみ)が伍郎(藤原竜也)の星座を「カメレオン座」(本当に在るらしい)と告げるのも、伍郎が仲間らと、変装と演技による詐欺を働いていることや、その仲間である公介(塩谷瞬)ですら、佳子に「伍郎って、何者?」と訊かれて、自分もよく分からないと答えざるを得ない正体不明さを抱えていること、R.C.A.の許に伍郎が赴いたシーンで語られる、変転を繰り返してきたその経歴など、伍郎のキャラクターが一応は「カメレオン」という言葉に集約されていく形をとっているからだろうが、どれもが些か空回りして見えるのは、発想が、二昔以上前のアウトロー像に沿ったような内容だからであり、また、このハッタリを利かせたキャラクターを成立させるには、松田優作ならまだしも、藤原では無理があるからだろう。煙草を吸った後にうがいをする癖にしても、「そういえば昔のドラマ『傷だらけの天使』のオープニングの食事シーンはこんなふうなぶっきらぼうさを演出していたな」と思わせる作為性が漂っていて白けさせられる。

藤原の演技は巧いのだが、まさに巧さが見えてしまう所が欠点で、演劇的な明瞭さによる台詞回しは、自堕落で胡散臭くて衝動的で計算高く熱い男、という多義的なキャラクターを「それらしく」演じているという以上の存在感が醸し出されない。物語とキャラクターの時代錯誤性を力業で打ち破る役者でなければ無理がある。冒頭から、若いのに老後の心配を口にしたり、公介との会話で「〜だぜ?」と言った後「だぜ?」だけを繰り返したり、R.C.A.から金を渡された際に一旦は拒みながらも「…と言い切れないのが情けない」と「お車代」だけ懐に収めるシーンなど、どうにも「それっぽい」キャラを演じている印象が拭えない。「…と言い切れないのが情けない」の台詞に関しては、「別れよう」と告げた伍郎の許から怒って去ったかに思えた佳子が、この台詞を口にしながら戻って来て伍郎に口づけをするシーンがあるが、ここではもっと、已むに已まれぬ情念が滲み出るような台詞として聞きたいところ。艶っぽい情感が足りない。

反面、伍郎の「カメレオン」ぶりが見事に発揮されるのが、格闘シーン。伍郎らのアジトを探索する刺客らの頭上から突然降ってくるという、初っ端からの「驚き」の創出。アクションの中で再び伍郎はテーブルの下に潜り込んで姿を消し、戸惑う刺客らの前にまた唐突に姿を見せるなど、カットを割らずに「姿を消す」というカメレオン的出来事を演出する手法が見事。模造刀で何度も相手を突くという、殆ど無意味なアクションが可笑しさと唐突さを発散したり、婦人警官姿の刺客が機敏な動きで凶暴に迫るという、視覚的な面白さ。最近の傾向として、アクション・シーンでやたらと被写体に寄る画が多用されたり、細かいカット割りや手振れによって迫力を演出しようとする手法が多いのだが、ワンカットで見せる方が「出来事」としての迫真性が遥かに優る面もあるし、ワンカットの持続に耐え得るアイデアを工夫する知性も観客としては求めたいところ。アクション演出にはちゃんとこうしたアプローチがあるのだと、凡百の演出家は知るべきだろう。

「見せない」演出は伍郎のアクションのみならず、金の為に結果的には仲間の命を売ってしまった公介が刺客のバイクにわざと轢かれるシーンでも顕著。刺客がその内側に入ったガレージの入り口を捉えたショットに、凶暴なエンジン音だけが被さる演出。この「音」が、『ジョーズ』の鮫の背ビレのように、姿の見えぬ脅威の恐怖感をゾクゾクと煽る。姿を再び現した刺客が公介に向かっていくのを横から捉えたショットでは、外壁に隠れたところで事が起こり、悲惨な死を視界の隅に追いやろうとしているかのような構図をとる。また、撃たれて死んだかと思えた佳子の許へ伍郎が現れるシーンでは、既に捕まっていた伍郎の仲間らがされたように「焼却」されようとしている佳子が、白い布を被せられ、顔を隠しながらも、呼吸によってそれを上下させていることで、生きていることを示すという、死の瀬戸際感。

尤も、こうした「見せない」画や、シーンの繋ぎに於ける省略のちょっとした加減がまた、幾分観客に分かり難い作劇を為している嫌いは感じなくもない。ラスト間際で伍郎が片腕を義手にしているのは、佳子の身柄と引き換えにしたということか?

(評価:★3)

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