[コメント] 闇の子供たち(2008/日)
欲しがる者がいるから売る者がいるのだ。いや、売る者がいるから買い手が現れるのだ、という議論は実に虚しい。問題は、金で買えるものと買えないものの境界線であり、それは、人の心の中にしか存在せず曖昧であやういということだ。骨太で真摯な作品だと思う。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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幼児性愛者たちが金で買ったのは人間の尊厳である。彼らは子供たちの尊厳を買い、欲望のために自分の尊厳を売ったのだ。心臓病の息子を持つ親が金で買ったのは命である。それは自分の息子の命であるとともに、タイの少女の命でもある。人の命を金で買うという行為もまた、自らの尊厳を金で売ったのだともいえる。
欲望のために自らの尊厳を売る大人たちと、息子の命のために自らの尊厳を売る親。さらにその元をだどれば、生活のために自らの尊厳とともに自分の子供を売り渡す親の存在がある。金で売り買いできるものの境界は、何のためなら自分の尊厳を売り渡すことが出来るのかという自問自答の問題なのだ。
その境界線は、各人の心のなかにしか存在せず実に曖昧だ。ただひとつ、はっきりしていることは、子供は社会において、あまりにも非力であるということだ。さらに、子供は私たちの社会の未来であり、すべてにおいて優先され守られるべき存在である。つまり子供こそが、私たちにとって最も尊く侵しがたい「社会の尊厳」そのものなのだ。
百歩譲って、何のためなら自分の尊厳を売り渡すかの判断は各人の勝手だとしても、「社会の尊厳」を金で売り買いすることなど誰にも許されるはずはない。
難題に正面から取り組んだ真摯な作品ではるが、テーマが映画としての力を持ち得るまで昇華されていないのが残念だった。
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