コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] パコと魔法の絵本(2008/日)

もうねぇ、そういう泣かせ方にはウンザリなんだよ!ウンザリなんだ!ちくしょう!誰かティッシュ持ってこい!
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 やれ記憶がどうだ難病がどうだ子どもが死んでどうだと、浅ましいにも程があるよ。そんなもんやられりゃ泣くんだよ。泣くに決まってんだ。

 僕は友人に誘われて、たまたま今作の原作となった舞台を観ている。非常にお金がかかっていて且つよく出来たお芝居で、そのときも「泣くに決まってんだろ」と思いながらオンオン泣いた。それはこの物語が現実から少し距離を置いた寓話性を持っていることと、何より舞台が持つ生の迫力に押し切られたことが大きかったんだと思っている。要は現実味を少し薄めることで、物語が持つあざとい匂いが消されていたんだ。

 この物語が映画になると聞いたとき、だからこそ僕は一抹の不安を感じた。舞台だからこそ消せたその匂いが、映画というリアルなジャンルに持ち込まれることで浮き上がってきてしまうんじゃないだろうかという不安だ。

 ところがさすが中島哲也。寓話である物語を視覚的にもより強く寓話化することで、このあざとい匂いを完全に消し込んできた。あちこちで打ち出される笑いも、それに一役買っている格好だ。この人はこういう匂い消しがいつも大変に上手い。

 実際、大貫がパコの病状を知るシーンはかなり危うい橋を渡っている。映画が下衆なお涙頂戴に堕す可能性を存分に秘めながら進む。ところが観終わったときの感想は、いつの間にか「大人の絵本だったねぇ」になっているんだ。ここを選んだこの監督の嗅覚は高く評価していいと思う。

 そしてこの寓話性の高さに大きく貢献しているのが、アヤカ・ウィルソンの問答無用の可愛さなんだ。予告でもチラホラ見てはいたんだけど、実際に動いているこの娘の可愛らしさは、もはや現実離れすら起こしている。半端じゃないんだ。半端じゃない。髪型、質感、造形、声、そして何よりピンクのブーツが死ぬほど可愛い。美術さん衣装さん特撮さんが全力投球することで、“今しかない”アヤカ・ウィルソンの聖なる一回性を余すことなくフィルムに叩き付けている。

 思い返せば神木隆之介君にもこんなときがあった。『妖怪大戦争』のときの彼は、明らかにこの一回性を有していた。そして今や普通のイモ臭いあんちゃんだ。要はそういうことなんだよ。気付いたときにはもうフィナーレなんだ。今しかないんだよ。

 この物語は、再現性のないアヤカ・ウィルソンの“今”を持ち込むことで「中島哲也の匂い消し」に強烈な推進力を与えたんだ。最早あざといとか臭いとかどうでもいい。こんなキラキラしたお伽噺の中で、こんな現実離れした女の子がピンクのブーツ履いて死ぬんだよ。そんなもん泣いたっていいだろ。泣くよ。僕は悪くない。

 中島哲也の配役の手堅さにはいつも感心させられる。当て書きのような人を的確に配置してくる人だと思う。その役者がそれに応えられるだけの上手さを持っているかどうかは微妙に別の話なんだけど、少なくとも物語への没入に障害とならないだけの人を持ってきている。不思議なのは何で他の監督はこれができないのかってことなんだよな。そこで無闇に奇を衒わないっていうのは、脚本に対する信頼であり、また自分の腕への自信だと思うんだけどな。僕はこの監督のこういう直球なところが大好きだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)SUM[*] りかちゅ[*] ホッチkiss tkcrows[*] ペペロンチーノ[*] ミュージカラー★梨音令嬢

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。