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[コメント] アキレスと亀(2008/日)

地獄変』になりそこない。ただの『北野変』。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







だいぶ前に見て、なんだか微妙な印象で、特に書きたいことが浮かばなかった。なんだか流ちょうに撮るようになったなと思った反面、ちっとも惹かれなかった。が売れない絵描きに扮するのは不思議なほど違和感ないんだけど、が売れないアーティストを物語ると言い換えたら、そんなもん、売れっ子のあんたが何言うんだよと、普通にそう思えた。

今思い返して印象に残っているのは、成長した娘のくだりだ。『地獄変』を地味に地で行く主人公の娘は身を持ち崩して便所でフェラチオして生きねばならぬ可哀想な境遇に陥っているにも関わらず、そんな娘に主人公はどの面さげてか絵具代を無心する。そんで娘がくたばったら、そのデスマスクをアートにしようとする。そんで、ついに嫁から愛想をつかされる。芸術家の不退転の見ちゃいらんない痛々しさをこれ見よがしに見せつけているんだけど……

このくだり、俺は、ちっとも買う気になれなかった。一見、生々しいようで、何の現実も言い当てちゃいないと言うか、それ、ただの自分ワールドだろとしか思えなかった。思えば、芥川の『地獄変』には、背景として、ちゃんと封建ワールドの社会性が垣間見えるから、その異常性がリアルに感じられるんだと思うんだ。この映画は、いつもの北野映画といっしょで北野ワールドでしかないのに、どっかで日の目を見ない芸術家を代弁したがっているふしがあって、乗っかれないんだ。最後の嫁が救ってくれるくだりとか、あきれて物が言えないんだ。

20代の俺にとって、宮崎駿北野武は信奉の対象だった。『千と千尋の神隠し』までは信じていたが、『ハウルの動く城』と『崖の上のポニョ』を経て、『風立ちぬ』は劇場に足を運んでいない。『TAKESHIS’』までは信じていたが、『アキレスと亀』を経て、今はもう劇場に足を運ぶ必要性を感じていない。

(評価:★3)

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