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[コメント] その土曜日、7時58分(2007/米=英)

めちゃ面白い。ここまでキャラクタを追い込めば面白いに決まっている。またその追い込みがサディズムという合理性とは無縁の嗜好によるものではなく、きわめて理知的なものであるのが偉い。ルメットの目つきは実験者のそれだ。誰に、何をさせると、どうなるか、という追い込み実験。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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中盤以降はまるで(とりわけフィリップ・シーモア・ホフマンアルバート・フィニーを中心とした)家族の闇というか家族間の葛藤というかがテーマとして描かれているようにも見えるが、私は必ずしもそうは思わない。「家族」もまたキャラクタを追い込むための材料のひとつだろう。要するに、一般的に人は何に関する追い込みがきついかというとやはり「金」と「人間関係」の問題で、後者のうちでも特に「家族」の問題で追い込まれるのはきつい、ということ。これは金や家族の問題などあらゆる方向から最大限まで追い込まれていくと人はどうなるかという実験(シミュレーション)を、ホフマンとイーサン・ホークという面白顔面を使ってやるという実に正しい思いつきの映画だ(ホークの顔を見ているだけでこっちまで追い込まれたような気分になる!)。

また、随所の小さな演出にも冴えを見せている。自身も致命傷を負っているのに冷静に強盗犯にとどめの一発を放つ母親。強盗の失敗を受けてホークが慌てて車を発進させるとだらしなく開きだすドアー。中性的な売人。完全に頭の線が切れたホフマンによる殺人の描写も簡潔で残酷で滑稽で、つまり面白い。指紋を残さないために足でドアーを閉める不恰好さ!

少なくともここでのルメットは人間を愛しているようにはまるで見えない。キャラクタに対してきわめて冷笑的で突き放した態度を取っている。「映画」の面白さにとっては、演出家は愛などというものを持っていないほうがよい、場合もある。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)Orpheus ぽんしゅう[*] おーい粗茶[*] ペペロンチーノ[*] けにろん[*]

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