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[コメント] WALL・E ウォーリー(2008/米)

“手をつなぐ”。たったそれだけのことで暖かさを感じさせてくれるから素晴らしい。さらに、映画の根源的な面白さとは何かも考えさせるからまた見事。(2008.12.14.)
Keita

**ネタバレ注意**
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ロボットの“手”は硬そうで、さらに触れても冷え切っているといったイメージがあった。この映画の中でも、「カチ、カチッ」といった金属が当たる音でそれが表現されていた。それでも、ウォーリーとイヴの手が触れ合ったときに、そんな冷たさよりも暖かさを感じさせてくれる。観ている方の心も暖まる優しさ溢れるストーリー、本当に素晴らしいと思います。

観ている最中、もう序盤でこの映画は間違いない出来だなと決め込むほどだった。鑑賞後に考えると、むしろ宇宙に飛び立つ以前の地球でのエピソードの方が面白みがあったとように思う(もちろん、この序盤が土台になっているので終盤のエピソードも隙はないのだが)。

序盤が特に生きていたことの要因は、一連のエピソードが映画の根源的な面白さを彷彿させるからに思える。ウォーリーとイヴのロボット2体が発するわずかな言葉以外、ほとんどサイレント映画のような体裁で進んでいく。トーキーが主流になる以前、人々はチャップリンキートンのサイレント映画を娯楽として楽しんでいたのだ。

日常会話で映画が話題に上ると「静かな映画は退屈」というように感じる人たちも多くいると思うが、この映画の序盤を観ると、台詞のありなしも、派手であるか静かであるかも、映画にとってそんなこと関係ないんだなと、ふと考えさせられたのだ。

ウォーリーはひとりもくもくとゴミ処理を行い続け、その過程で見つけた珍しい機材を保存していたりして、その中のひとつであるビデオテープを観ながら誰かと“手をつなぐ”ことを夢見ている。この設定を描き出すのに台詞なんてひとつもない。それでも、ピクサーらしいきめ細やかな描写によって、ものすごく引き込まれて観てしまう。

そして、イヴがやって来てからの一連のウォーリーの献身的なエピソードに繋がって行く。サイレント映画的な作りでここまで心を動かされると、もう『街の灯』や『モダン・タイムズ』のようなチャップリンの心暖まる名作まで頭に浮かんできた。それくらい、この映画の序盤の描写は、挑戦的でもありつつ、素晴らしいものだった。

さらに、このサイレントパートはもうひとつのオマージュにもつながっていたということ。中盤以降の展開に進んでいくとそれもわかってくることがまたニクい。序盤、宇宙に出るまでがサイレントという構成は、猿が道具を使うまでの過程をナレーションも一切なく描いた『2001年宇宙の旅』と同じ構成なのだ。物語はウォーリーとイヴの純愛物語に加え、人類が母なる大地・地球への回帰を願うようになるという再生の物語の側面も帯び始めるようになる。キューブリックの名作SFをさかのぼっていくような主題を秘めているのだ。

こういったSF映画のオマージュは映画ファンにとってはニヤリとしてしまうウマさを感じさせる部分だし、ウォーリーの起動音がMacの起動音と同じといったようなあまりに細かすぎる演出はマニアを喜ばせるし、そんなこと全然考えなくても老若男女が確実に楽しめる親切な作りになっている。ピクサーの総合力の高さを今回も実感させられました。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] chokobo[*]

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