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[コメント] トパーズ(1969/米)

ヒッチコック晩年の作品と、当時の時代背景のバランスが崩れている。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







硬派な映画だと思います。

ヒッチコックがこれまでスクリーンで出してきた勢いが、いずれもシーンにも上手に満たされていて、とても美しいと思いました。

少し視点を変えて考えてみますと、当時、つまり1969年という年は、アメリカの映画界が大きな変化をしようとしている胎動期から爆発した変化の年なんですね。

イージーラーダー』や『真夜中のカーボーイ』など、いわゆるアメリカンニューシネマといわれるロードムービーなどが次々と上映され、そこに出現する新しい役者、新しいストーリーが注目されていた年なんです。

そんな年にヒッチコックが政治劇を作った。これ以上、硬派なお話はありません。

確かに当時の時代背景の中で、キューバ危機を見直すという行為はかなり気難しい行為として映ったことでしょう。従って、当時のこの映画に対する評価が低くても致し方ありませんよね。

しかし、ヒッチコックは愚直に彼がこれまで実践してきた映画実験をここでも続けています。

緊張感あふれる密室劇。そして音楽も何も流れない静かなシーン。

そして交渉、会話、銃声。

そんな小さなシーンの集まりをもって、この映画が生み出されていることに感動せずにはいられません。

ラスト近く、大きな洋風の会議室に多くの人が集まりますね。カメラはこの部屋を静かにずーっと上へ上へと上がって行きます。そして会議室の椅子に座る前の男たちが立ち話をするシーン。これこそ芸術。こんな美しいシーンを随所に盛り込みながら、彼が晩年に至るまで、比較的にペーソスあふれる映画がおおかったところを、ここでは愚直に硬く演出してるように思えます。

ヒッチコックの映画研究はもっと多くなされるべきですね。かつてヌーベルバーグの若手だった方たちのように。トリフォーヒッチコックを高く評価していたことを思い出します。

そしてこの映画の最後にもパリの凱旋門が出てきますね。

もともとイギリス出身でアメリカに渡った大成功を得て、そしてやはりヨーロッパへの深い思いを抱きつつ晩年を迎えた彼の気持ちが伝わる映画でしたね。

2009/05/17

(評価:★4)

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