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[コメント] チェ 39歳 別れの手紙(2008/米=仏=スペイン)

★5は2部作両方を観ての敬意。20世紀の伝説的人物にこれだけ真摯に向き合わせてくれたこと。それだけで貴重な映像体験だ。(2009.02.15.)
Keita

**ネタバレ注意**
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前編から続けて鑑賞し、この後編を見て評価が固まった。作りとしては前編の流れを汲んでいるので、そのスタンス的な部分についてはもう語るまでもなく異論なし。大事なのは、無音のエンドクレジット中で、チェ・ゲバラについて何を考えたか、なのだと思う。

前編はキューバ革命で勝利するまでの「成功」を描いた映画だった。しかし、後編はさらなる革命を求め降り立ったボリビアの地で、捕らえられ命を散らす「失敗」を描いた映画なのだ。前編と同じように、山中でチェが喘息に苦しむ場面があるが、この意味合いが全然違う。キューバではそれを忍耐として捉えられたが、ボリビアではもう無理をしなくてもいいのではないかという哀れみを含んでいるように思える。前編と後編、同じように見えて鏡で映し合わせたように対称なのは、ソダーバーグ演出の巧さを感じさせる部分である。

前編においてゲリラ戦描写の間に挟まれるシーンは、チェの国連での演説シーンだった。いわば、理想と栄光に満ちている。だが後編では、ゲリラ戦の合間に挟まれるのは、バリエントス率いるボリビア政府軍の対ゲリラ戦略の協議のシーン。チェをいかに捕らえ、殺害するか。この構成、完全に終焉を見据えている。それもあって、悲痛さと死に向かっていく緊迫感が高いレベルで引き出されているので、前編以上に息詰まる思いで鑑賞させられた。

本当にチェが最期を迎えるまで、この映画は事実を伝えることだけを考え、その真摯な姿勢を貫き続けた。死の場面で変に感傷的に演出したりはしないし、チェを英雄として仕立て上げたりはしない。それでも、チェ・ゲバラという男はカリスマ的魅力がある男なのだ。ハリウッド的英雄譚へのアンチテーゼとも取れる構成、これをこの題材でやり遂げた功績は大きいと思うし、この2部作が映画史上にしっかり残ってほしいと願う所以でもある。

ラストシーンはキューバへ向かう船の上で海を眺めるチェの姿を映す。最初に戻る形で幕を閉じている。説教臭さはないけど、彼の理想主義的思いは生き続けていると無言で伝えているように感じた。エンドクレジット中、静けさ漂う劇場で、儚く散った男に思いを馳せる。娯楽というより、すごく貴重な映像体験だったと思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)煽尼采[*] 死ぬまでシネマ[*] 緑雨[*] イライザー7[*] おーい粗茶[*] 水那岐[*]

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