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[コメント] 愛と平成の色男(1989/日)

タダ券があったので期待せず観たのだが拾いもの。『メインテーマ』では半端だったバブリーコメディを、アイドル売り出しの制限なしに気兼ねなくフルスイングして、まことにバカバカしい一篇としている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







雷蔵ならパロディ風に演じる処を、芸風通りに表出した石田純一が立派。映画は冒頭、妹の鈴木保奈美の批評でもって、石田の一連の気障はバカ話なのですよと丁寧に断りをいれている。だから本作を、自覚のない金持ち歯医者の自慢話と観るのでは監督が可哀想だろう。

石田は「都会のボクに関係のないことは全部、曖昧にみえる」と語り始める。この全編通したナラティブ自体、「なんとなくクリスタル」の脚注のパロディだろう。そして最後には、バングラディッシュの難民に歯科治療ボランティアをするとヘリで旅立つのだが、これは正義に目覚めるというパターンを覆し、女たちを振り切るウソ、実際はグアム6日間の旅、ということでコメディが首尾一貫している。『好色一代男』というより『ぼんち』風のラストというべきか。こういう戯画的人物が本当に海外ボランティアなどしたら即死するだろう。

歯科治療しながら恋の駆け引き。「差し歯入れたらもうお別れなのね」「歯垢でも取りにくればいい」。夜はサックス演奏。「今晩の演奏は、キミの瞳がコード進行」。「『トップガン』(未見)のマクギリスのようなオンナを求めている」という科白があるが、そういう準拠枠の時代だったのだ。武田久美子の婦警に駐禁の印をタイヤにチョークで書かれて「人のクルマに落書きしないでくれる」とナンパを始める石田も素晴らしい。武田のとんでもない水着も見処。

結婚嫌いで結婚を切り出されると途端に別れ話にシフトする条件闘争も愉しい。自宅で妹の鈴木に日蓮宗風のデンデン太鼓の替わりに赤いタンバリンを仏前で叩かせて狂信者のふりして相手から別れを云い出させている。そして港での別れ、彼女の真っ赤なスポーツカーが去って石田は雨中、埠頭に置き去りにされる。こういう細かい処で映画はこの気障オトコに懲罰を与えている。

終盤は鈴木京香をアイドル並みに扱う必要があったのか、彼女にはコメディをさせずに真面目、それで平凡になってしまった。もうひとついいネタを持ってきて、彼女に大馬鹿を演らせたら大傑作だったかも知れず残念である。

全編、出てくる女優が全員タイプが似ている。面長で堀が深く顎に特徴がある、木暮の類型だ。これが石田の好みのタイプということで、意図的な配役なのだろう。

撮影は平凡。森田はもうすでに同時代の表象批評家の評価を得られなかったと判っているので、映像に凝るのは止めてしまったらしく、それはそれで残念。冒頭の石田はコメディですと示すためのコマ落としと、銀座四丁目を曲がるクルマのローアングルから見上げる夜景が凝っているぐらい。あとはいつもの仙元の撮影。

クルマ運転しながら電話している件があるが、当時は違法ではなかったのだろう。コンビニで電球を大量に売っている件があるが、何の意味があったのか冗談だったのか。エンドタイトルの「衣装協力」が見たこともないほどの量でダメ押しに笑わされる。

(評価:★4)

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