[コメント] チェンジリング(2008/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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息子ではない少年を、よってたかってみなが息子と言い張るっていうシチュエーションを与えられたら、まず「不条理劇」の不穏な方向へハンドルを切りたくなるだろうし、連続誘拐殺人の話におよべば、ミステリ的な効果を施したくなりそうなものなのに、イーストウッドは絶対そういうことをしない。『恐怖のメロディ』のストーカー女性の描き方からしてそうだった。あんなに酷い目に自分があっているのに、彼女をヒロインとして描いているんだもの。
人はジャンルというドラマを生きることはなく、誰もタイプなどを引き受けてなどいないのだ、という信念があるのだろうか。
彼女は自分でまいた種は自分で決着をつけようとするというところだけはちょっと人と変わっているだけの、ただひたすら子供を心配しているというふつうの母親(女性)として描ききる。そこがまったくブレないのが凄い。だから彼女が連続殺人犯の男に「あんたって凄いな、警察相手に一人で闘っている闘士なんだってね」と言われ、彼女も観客も当惑するのだ。彼女は息子を助けたがって心配しつづけているただの母親じゃないかって。周囲の状況が勝手に人物を作り上げてしまうっていうことは、こういうことなのかってことが良くわかる。
非常にセンセーショナルで映画的な事件。その渦中の人をキャラクターとして作り上げず、その渦中の人が生きていた本当のその時に近いものを味わわさせてくれたと思う。絶望や希望で簡単に上げ下げするような劇では描けない、そのどっちでもあるのが人生ということを、短時間の映画で描いてしまっていると思う。
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