[コメント] チェンジリング(2008/米)
「執念」という言葉はネガティブなイメージを纏いがちであるのだが、誤解を恐れず言えばこの映画は執念の讃歌だ。執念あってこその人間、というメッセージが秘められているように自分には思えてならない。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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アンジェリーナ・ジョリーは随分「目力(めぢから)」の強化された女優に育ったのだなあ、という感慨が自分の中にはある。ヒロインは息子を奪われなければ愛郷心溢れる女性として、何の問題もない人生を歩んで生涯を閉じたことだろう…そんな彼女が執念の鬼と化したことに、ジョリーの面目躍如たる演技力が発揮させられる。
ジョリーは執念のあまり広い視野を失っているかのように見えるが、弱者にはその素顔の一端としての優しさを見せる。自分はそこに、老人として演技人の道から自ら外れていったクリント・イーストウッドの信念を見る。まだまだ若かろうジョリーの性格は、イーストウッドの精神を抱き込むことによって老いの力をも内在させる。恐らくはいくら待っても帰らない身となってしまった息子のために、ジョリーは血を吐く思いで事件に安易なピリオドをうとうとする権力を弾劾する。その執拗さに裏打ちされた肉親愛は老人の特権である。自分はジョリーを利用してでも己の信念を訴えるイーストウッドに好感を持つ。老人らしい老人が絶滅の危機に瀕している先進国群にあって、それは潔く美しい。
イーストウッドは気骨ある老人として、まだまだ映画界に生き残って気を吐いてもらいたい。そして、ジョリーのように代弁者に相応しい熱い男女を思う存分操ってもらいたい。ドラマの筋が単調でも、ここまで見せてくれる監督に未来はまだまだ尽きていないはずであるのだから。
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