[コメント] ヤッターマン(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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オリジナル版「ヤッターマン」は、当時としては異常なまでに自由度の高い作品だった。毎週のお約束を存分に散りばめながら一方で自らそれを「マンネリ」と言い放ち、あげく視聴者とのやり取りまでやらかしてしまう、最高に勢いのある「何でもあり」のアニメだった。
三池崇史という人はよく悪ふざけをする。それはこの人が「正義」とか「勇気」とか、そんなものをこれっぽっちも描く気がないからだと僕は思っている。物語の都合上それを言わなければならないとき、三池は悪ふざけによって「これはおためごかしです」という防波堤を築こうとする。今作でもそれは全く変わっておらず、クライマックスでスーパーメカの素を抱えて走る櫻井翔を見て岡本杏理が呟く「勇気…」というセリフの空っぽさたるや凄まじい。
そしてこの空っぽさの象徴となっているのが主演の二人だ。特に福田沙紀の扱いのおざなりっぷりったらない。櫻井翔演じる一号のキャラクターの薄っぺらさもスゴいんだけど、福田沙紀演じる二号に至っては最終的に「ヤキモチ焼き」という役割しか与えられていない。更にはメインの役柄にも関わらず一瞬たりとも可愛く撮ってもらっていない。三池どんだけやる気ねえんだ。むしろそのおざなりさ故に目立ってくるくらい扱いがヒドい。
ところが今作は、この空っぽさや悪ふざけが作品世界の中に収斂されてしまうんだ。それは前述の通り「ヤッターマン」が何でもありの作品だったからだ。この舞台においては、三池が多少の無茶をやったところでそれはやっぱり空っぽで悪ふざけな「ヤッターマン」になるんだ。思えばオリジナルにおいても主人公は薄っぺらだった。そして二号は添え物だった。事実櫻井翔は「脳天気な正義」という役割であるが故に、薄っぺらなキャラクターにも関わらずきちんと活きている。こんな食い合わせの良い実写化ってそうそうない。ドクロベエから阿部サダヲを引っ張り出す岡本杏理の「臭っさい…」というセリフなんて、この食い合わせが最高に結実した瞬間だと思う。結局のところ、この映画は物語を紡ごうとする映画ではなく、瞬間瞬間の出力を楽しむ映画なんだ。
とすればあと必要とされるのは「ヤッターマンのお約束をどれだけ楽しく詰め込めるか」ということになるわけで、今作はそれを見事なまでに完遂してくれている。ドロンボーの悪商売、「もしかしてもしかしたらもしかする」、ヤッターマンの出動、ビックリドッキリメカ、「全国の女子高生の皆さん」、おだてブタ、ドクロベエのお仕置き。僕が小さい頃に毎週楽しみにしていたそれらは、余すところなくスクリーンに登場する。オリジナル版放送時に5才だった僕にとってそれは原体験といってもいい存在で、そんなもん見せられたら喜ぶに決まってる。ヤッターワン出動でヤッターマンの歌がかかるシーンなんて、ホント普通に涙出た。
というところが今作の真っ当な部分の感想。でもホントに大事なのはそんなところじゃない。みんなわかってんだろ。この映画において本当に大事なのは、そして三池崇史の本気が垣間見えるのは、深田恭子のドロンジョだ。ドロンジョ超スゲえ。たぶん三池はドロンジョ以外はあんま描く気がない。そして深田恭子の持つよくわからない器の大きさが、それに十全に応えている。本来はサディズムのアイコンであるこの役をおっとり深田恭子にやらせるというギャップと、そのギャップ故に匂い立つエロス。深田恭子が嫉妬心から福田沙紀と櫻井翔に電撃を浴びせるシーンで、そのギャップはそのままドロンジョのキャラクターの厚みへと昇華している。何だかわからないけどスゴいものを見たよ。生瀬勝久の好演もその一助として素晴らしく機能している。全国の女子高生の皆さんに埋もれながらドロンジョのペディキュアを塗るボヤッキー、この「ペディキュア」って選択とかちょっとハンパじゃないよ。大丈夫か。いいのか。
あと「蟻に体を毟られるバージンローダーに欲情しまくるヤッターワン」も本気でヒドいと思った。メカだからってやっていいことと悪いことがあるよ。深田恭子を頂点としたこの倒錯、この映画には何故だかそれがふんだんに盛り込まれていて(ヤッターワンにしがみつく岡本杏理の太ももとかもそうだ)、結果として脳天気な物語のアクセントになってしまっている。「三池さんそれはちょっと…」と思いつつ、「もっとやれ」とも思う。思えば福田沙紀の扱いの悪さも、この倒錯のM的部分の一環なのかも知れない。これはウソだ。まぁとにかく、「ヤッターマン」観に行ってこんなもの見せられるとは予想してなかった。深田恭子と結婚したい。
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