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[コメント] グラン・トリノ(2008/米)

20世紀のアメリカが次世代に託す知恵とは。世代や民族など異文化との調和というお話は面白いのだけど、全体的な流れがあまりにもスムース過ぎたかな。もう一ひねり欲しかった。090508
しど

最近のイーストウッド作品に出てくる「読書家=賢者」という描写は今回も有り。ただし、そうした「記号」が、モロ出しベタ展開なのが、ちょっと浅い感じ。

内容は非常にわかりやすい。孤独な老人が財産をもてあましている。同じ財産でも、老人は自分自身の人生そのものを大切に思うが、孫達は、車や家具などの「物」にしか興味が無い。そんな老人が孤独を癒してくれた若者に、人生という財産を託す。よくある展開である。

こんな展開に人種の異文化を持ち込む場合、日系人からアメリカ人への『カラテ・キッド』のように、従来、異文化を身につけて成長するのは白人だった。しかし、今回は、白人の知恵をアジア人が受け取る。その「白人の知恵」とは「グラントリノ」を象徴とする「アメリカ文化」であり、「アジア人」は読書が好きでやる気はあるけど機会に恵まれない「マイノリティ」だ。

20世紀のアメリカ文化は終わり、21世紀のアメリカが始まった。21世紀のアメリカは、かつて産業の象徴だった自動車産業が衰退し、初めて黒人大統領を迎えた。時代の転換する最中(さなか)、死期に近づいたアメリカ文化そのものの老人は、どんなラストを選択するのか。

思えば、クリント・イーストウッド自身、アメリカを象徴するような役者でもある。西部劇でスターになり、「力の正義」(いろいろ含みはあるけど)を象徴する『ダーティ・ハリー』の44マグナムによる死刑執行人の当たり役。今回の役も、そうした男の晩年そのものである。自分自身の価値観を絶対視し、他人を寄せ付けない。短気で頭に血が上ると、怒りに任せてうめき声すら漏らす。問題解決手段は暴力。

暴力を炸裂させる老人はまさにハリー・キャラハンを思わせるカッコ良さで、ラストの敵に向かう姿には手に汗握る。

そんな男が、アジア人に、自身の朝鮮戦争で貰った勲章を託し、最後の戦いへ向かう。この「勲章」が何を意味するのか。アジア人を殺して得た勲章をアジア系アメリカ人が引き受けることの意味はなんだろうか。

予想を裏切る展開は随所にあるけれども、見終えてから考えれば、とっても予定調和だったりする。そこがつまらないといえばつまらないけれど、逆にいえば、非常にわかりやすくて楽しいともいえる。散髪屋でのやりとりなんて、とってもホノボノしてるし。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)サイモン64[*] sawa:38[*] 水那岐[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*] セント[*]

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