[コメント] 愛を読むひと(2008/米=独)
映画を見終った人むけのレビューです。
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情や理屈のうえでの被害者と、自らの身を実害にさらした被害者。確かにどちらも広義のうえでは戦争の被害者であろう。これは、互いに一生明かすことのできない秘事を抱え込んだ、一見歴史の被害者に見える女と男が、数十年たっても癒されぬ傷を負い、悟りの境地に達したかつての少女の前で懺悔するまでの物語だ。
ハンナ(ケイト・ウィンスレット)の職務への馬鹿正直なほどの忠実さは、彼女のコンプレックスの裏返しとして発揮されたのかもしれない。すると彼女は文盲に対する負い目と羞恥から、無自覚にも大量殺人に加担してしまったことになる。法廷の怒号の中でそのことに気づいたとき、ハンナにとって文盲は恥ずべき弱点から、秘すべき大罪の元凶として永遠の秘事となったのだろう。
マイケル(デヴィッド・クロス/レイフ・ファインズ)のハンナに対する躊躇と距離は、確かに保身から始まったのだろう。しかし、大量虐殺に加担した女と、かつて関係を結んでいたというマイケルの極私的な後ろめたさは、そこに存在する愛情と理性だけでは対応できない歴史的大罪を前に、やがて法律家として絶対に明かすことの出来ない汚点となって彼の心の秘事となった。
決して明かされることのなかった、いや明かすことのできなかった二人の秘事は、かつて少女時代を収容所で過ごしたメイザー(レナ・オリン)に対して、初めてマイケルによって語られる。メイザーは、いたずらに過去への憎しみをあらわにするでもなく、しかし頑なに安易な許しなどほどこさず、情や理屈に決して動じない。古びた空き缶を通じてハンナに、まだ不幸を知らない少女時代の共感を寄せるだけだ。毅然とした彼女の振る舞いや言葉には、悟りの境地すら漂う。マイケルの告白は、さながら善悪すべてを司る者を前になされる懺悔のようである。
この面会をきっかけに、マイケルは癒され自分をとりもどしたようだ。本当にマイケルは許されたのだろうか。マイケルは娘に、いったい何を語ろうというのだろうか。いささか、結論を急ぎすぎてはいないだろうか。
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