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[コメント] 宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-(2009/日)

色々な意味で“新しい”アニメです。まだまだアニメの可能性は残っていることを感じさせてくれました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 実は、失望するのがデフォ。という感じで軽い気持ちで観に行ったのだが、これ、ムチャクチャ面白い!

 “ドキュメンタリー”と冠しているだけに、本当に武蔵と言う人間の事実を捉えようという意識にあふれているし、吉川英治の小説から一歩離れ、五輪書に書かれていることから、武蔵と言う人間が一体何を考えていたのか、武蔵が本当になりたかったものとは?かなり真面目に考えられているし、一方アニメーションと言う素材をベースにしているために、決してお固いだけの学術的作品にもなっておらず、かなり好感度の高い作品として仕上げられている。前に押井監督が作った『立喰師列伝』の延長にありつつ、しっかりエンターテインメントとして仕上げられてるのは素晴らしい…押井はもう監督やっちゃいけない、と極論するわけではないが、監督を他の人物に任せて本作は成功と言えるだろう。

 さて、それで内容だが、まず犬飼喜一(仮)と助手のイオリなる人物がコメンテイターとして登場し、それが解説を加えていくのだが、これがまんま押井そっくりというのが面白い。言葉はボソボソと言うわけでもなく、あたかも本当の解説者のようにふるまいつつ、いろいろパフォーマンスもかましてくれている。

 そして武蔵の実像とは。

 まず武蔵とは“馬フェティ”である。という突拍子もない前提を提示。そしてその理由を述べていく。馬は戦いには欠かせない存在だが、会戦における馬の使用法は世界的な意味で色々異なるが、武蔵は日本限定で、合戦での馬の運用法にこだわり続けた。武蔵を特徴づける二刀流も馬上で使うことを前提で考えられており、馬上での戦いの方法にこだわり続けたのが武蔵だったと言う。

 そして武蔵が理想としたのは、剣士として剣の道を極めることではなく、戦術家として、兵法家として合戦で指揮を執ることだった。しかもそれは騎馬を前提として。戦術家としての武蔵の能力は、負けることがなかったと言う数々の戦いにも表れているが、むしろ武蔵は騎馬隊の大群を率いて戦いたかった。

 仮に武蔵が生まれた時代がもう少しずれていれば、武蔵が理想としていた生き方も出来たかもしれない。だがちょうど兵法家が不必要とされていた時代に生まれ、さらに武蔵は剣士として超一流だったことにより、剣士としてしか見られなかったのが彼の不幸であった。そんな武蔵の孤独感、センチメンタリズムをも感じさせてくれる。

 …これらはあくまで一つの過程に過ぎない。しかしそれが映画になって目前に現れると、不思議と凄い説得力を持った言葉に聞こえてしまうから不思議なものだ。事実鑑賞中は感動さえ覚えてしまった。

 鑑賞後、急速に気持ちは冷えていったのだが、その代わりとしてふつふつと心に湧き上がってきたものがあった。

 それは、「これは劇場アニメーションの新しい道の一つではないだろうか?」ということ。この作品は昔からアニメーション制作に携わってきた押井という才人あってのことで、なんだかんだ言ってもアニメーションの作りを良く知っているから出来たことだが、こなれてくれば作品のベースとするのはアニメーション畑の人でなくても構わないと思うし、シナリオと監修をしっかり行えば、学術的作品であってもエンターテインメントに作ることは出来るし、テレビではなく劇場でやることで、色々自己主張の場を作ることが出来る。アニメならば、どんな時代でも、どんな突拍子もないことも出来る事も強味。

 アニメにはこう言う使い方も出来る。そんな可能性を感じさせてくれただけで充分面白さを感じる事が出来た。

(評価:★5)

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