[コメント] 処刑の部屋(1956/日)
私がキライな画面から先に書こう。まずは相変わらず下品なアップ挿入の例。これはモブシーンのモブにも多いし、冒頭の宮口精二登場シーンの痛みをこらえた顔のアップなんかもそうなのだが、何と云っても、宮口の妻−岸輝子の唐突なアップ挿入だ。これを何度も繰り返す偏執的な演出はもう勘弁して欲しい。多分観客に不快感を与えることが目的なのだろうが、私は岸輝子に失礼だと思うし、彼女を(そして私を)愚弄しているとさえ感じて来る。この点は、よく指摘されている本作の若尾文子と川口浩のキャラ造型や関係性の描き方以上に私にとっては不承認な部分だ。
#映画の内容からくみ取ったイデオロギー(思想傾向というか)に対して承認/不承認を感想に書くということ自体に、私はあまり興味がない。
続いてこれ見よがしなパンフォーカスの画面。パンフォーカスには良いものもあって全部がダメかというと、そうではないのだが、やっぱり、宮口の家庭内のシーンで頻出するものはワザとらしくて良くないと思った。例えば、左手前に岸、右に息子の川口浩、その奥に宮口を配置したショット。あるいは、左手前に布団の中の川口、右奥に岸が立っているショット。アップもそうだが、壊れた家庭の状況をこのような過剰にキャッチ−な画面で強調してしまっているのがワザとらしい。ついでなので良いパンフォーカスの例もこの段落で書いておくと、例えば、ダンスパーティの場面。ダンスする女子を手前に映し、奥に肋木の前の男子たちを映したショットなどを細かく繋ぐシーン。あるいは、撞球場で川崎敬三たちと喧嘩になる場面のスピーディなカット繋ぎでも、ほとんどのカットで手前から奥までピントが合っているなんて画面造型には瞠目した。その他、川口と友人の梅若正義(後の梅若正二)が若尾と瀬戸ヱニ子に睡眠薬入りのビールを飲ませてレイプするクダリや、その後日の川口と若尾の喫茶店のシーンなどでもパンフォーカスが頻出するが、このあたりは効果的な使われ方だと思った。
他の瞠目した画面ということだと、本作のモブシーンの造型には見捨てられない(書き残しておきたくなるような)魅力があるという点だ。上でも書いたダンスパーティ(2回ある)や大勢でのケンカの場面もそうだが、まずはクレジットバックが記録映像も使われたスポーツ観戦・応援シーンで、凄まじい熱気を表出したスタジアムの情景だ。実はこれはフラッシュフォワードで、同じ場面が中盤でも出て来る。続くロケ撮影での新宿駅前のモブシーンも凄いもので、これには驚かされた(新宿武蔵野館も映る)。さらに、モブの中をカメラが前進移動し、キオスクみたいな屋台の光の中にいる若尾と瀬戸に寄っていくというショットもとてもいい。あとは、川口が若尾に付きまとわれるようになる流れの中で、ラグビーの練習シーンが唐突に挿入されるのだが、このラグビーの練習試合のモブの演出、カット割りもとても面白いと思った。本作のこれらモブシーンの演出に関しては、正当に評価してしかるべきだろう。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・川口たちのU大の学生の中では梅若の他にリーダー格の小高尊(小高雄二)、若尾を好きな平田守が目立つ。下宿で写真を撮るのは伊藤直保(三角八朗)。他に山崎直衛。
・対抗するJ大の川崎の仲間には入江洋佑がおり、若尾の従兄で月田昌也。
・川口と若尾が出会う研究会の教授は中村伸郎。経済学を講義するのは伊東光一。中村伸郎教授のところに来る雑誌記者は中条静夫。
・冒頭、宮口が訪問する顧客に丸山修。
・川口たちの行きつけのバーのマスター毛利さんは南弘二。
・川口がダンスパーティでの演奏を依頼するバンド・マネージャーに春本富士夫。ダンスパーティで相手(女の子)が見つからない学生は飛田喜佐夫。
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