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[コメント] 96時間(2008/仏)

かつて偉大な大統領が言った。国がオヤジに何をしてくれるかを尋ねるな。オヤジが娘に対して何ができるかを尋ねなさい。
dappene

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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このオヤジの強さの根源は技術や腕力ではない。決意だ。

娘を助け出すためには一切の躊躇をみせず、常に先手を打つ。揺るぎない決意は絶望的な状況の中に圧倒的有利な局地戦生み出す。そして、か細い命脈を手繰り寄せ、核心へと着実に接近していく。

                   ★  ★  ★  ★  ★

冒頭からの一連のシーン。娘の誕生日プレゼントは熟考を重ねて購入したしょぼいカラオケマシーン。怪訝な顔を見せる元妻(母)をよそ目に無邪気に喜ぶ娘。次の瞬間、馬を引いて現れる義父。カラオケを放り出して奇声を発しながら馬と義父にかけよる娘。圧倒的格差。さえないオヤジの哀愁に共感せずにはいられなくなる。ここまで僅か数分。

オヤジに感情移入させつつ、オヤジの娘への愛・別れた妻からは冷たく距離をおかれている状況・再婚相手との経済的格差・天真爛漫で優しい娘・・・物語の背景を、必要な設定を、すべてシーンで見せきる。そしてこういった背景がこの後のオヤジの行動を観る者に対し正当化させてくれる。もっといえば、その急展開ぶりと登場人物の華やかさの無さ加減が、これはB級映画だ、そういうつもりで観てくれ!との挨拶代わりにもなっている。

                   ★  ★  ★  ★  ★

この後、多少緩めの時間が流れ、娘がフランスへ着くと、そこから怒涛の展開をみせる。 感傷的作劇と印象的なシーン作りは観る者の血を煮えたぎらせる。

強い、強い、滅法強い。ほとんどのシーンで突発的暴力を浴びせ秒殺、盛り上げる為の格闘など皆無。信念と矜持の残り香が画面を漂う。

そのニヒリズム、男臭さ、斬新な切り口は初期ジョン・ウー作品に出会った頃の新鮮な感覚を呼び起こす。そう、これは男の映画だ。いや、オヤジたちの挽歌だ。迷うことなく傑作B級映画の判を押すべきなのである。

つまり、映画はコケるも口コミで良さが伝わりいずれレンタルDVDで高回転を誇る事になるに違いない。入荷量も少ないぞ、きっと・・・

                   ★  ★  ★  ★  ★

余談:本作における96時間という縛りは物語の核心にないので、続編ではその設定は踏襲されないでしょう。ですので「96時間2」というタイトルにするとものすごい無理が生じる。安直に邦題作った方、2〜3年後に苦しみなさい。ふふふ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)G31[*] ハム[*] プロキオン14 けにろん[*] 死ぬまでシネマ[*]

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