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[コメント] BALLAD 名もなき恋のうた(2009/日)

なにしろ監督が『BALLAD 名もなき恋のうた』という作品を撮る気がないというのは、映画にとって不幸だったと思う。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ことさらアニメファン、クレしんファンを自認するわけじゃないけれど、私にとって『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』という映画は、たとえば“人生の100本”みたいなものの30番目くらいまでには間違いなく挙がってくる作品であり、今回のスターシステムによるリメイクに対して「けっ」という気持ちは当然ある。と、先にエクスキューズをかけておくと、なかなか比較的、わりとそこそこ、それなりに悪くない出来だったと思う。

 だけどそれはあくまで『戦国〜』実写版としての感想である。野原家が川上家にとって替わって、“れんちゃん”と“おまたのおじちゃん”は廉姫と又兵衛になった。草なぎ又兵衛には力強さもなければ、その屈強な体躯と裏腹の純情さも表現されなかった。ガッキー廉姫はきれいだったけど、体がでかすぎて、か弱さが失われたものになった。そして、野原家という稀代なキャラクターとシリアスで巧みなストーリーテリングが織り成したギャップの魅力は、完全に消え失せていた。

 というか、『戦国〜』における、しんのすけというキャラクターの強烈なバックボーンを改めて認識したと言ったほうがいいかもしれない。この作品は例えば『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を妻夫木と柴咲コウで実写化したようなもので、そう考えれば、やっぱりなかなか比較的、わりとそこそこ、それなりに悪くない出来だったと思うんだ。反面、VFXを駆使した合戦シーンや、モブなんかは実写に一日の長を感じさせたし。

 だけど、これはリメイクの域を出てないんだ。この映画が『BALLAD 名もなき恋のうた』ですよと、つまりは又兵衛と廉姫の悲恋を描いたラブストーリーですよ、「戦国時代のタイタニックですよ」と言われれば、それはないだろうと思うしかないのだ。

 そもそも山崎監督は『戦国〜』の実写化という作業ばかりにご執心していて、廉姫と又兵衛の「タイタニック」を語ろうなんて気持ちはまるでなかったように見えた。実写化に際してカットされたシーンの多くは、「実写化不可能だから」「実写でやるにはコミカルすぎるから」という消去法的なものであって、「廉姫と又兵衛の恋愛をより明確に伝えるため」に積極的に切り捨てられた(あるいは加えられた)シーンはひとつもなかったんじゃないかと思う。

 結果、この作品には主役がいなくなってしまった。

 もろもろ大人の事情はよくわかるし、山崎監督やこの企画そのものを指弾するつもりなんて全然ないけど、制作側が一枚岩じゃない作品って、お客さんにもそういうの伝わってくると思うよ。

(評価:★3)

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