[コメント] 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(2008/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
「移民」をキーワードに描かれる群像劇の、それぞれの登場人物の相関関係を、いささか作り込み過ぎたという気がしなくもないし、それ故に『クラッシュ』の二番煎じのような印象が残ってしまった。
だが、ここで描かれている物語は、一方でアメリカで正当に市民権を得ることの意義に触れつつも、そのアメリカがどういう国に見られているのかということに、誠実に、そして真面目に向き合おうとしているのではないだろうか。
アジアからの移民の息子は「金持ちだけがいい目をみる国」といい、熱心なイスラム教信者である少女は学校の授業で「911」についてのレポートを提出したことによって「危険人物」とみなされ国外へ放り出される。
また、女優を夢見て観光ビザで入国した女性は屈辱に耐えた挙句、結局は「自主退去」を余儀なくされた。あっという間に息子と切り離されて「強制退去」させられた母親はわが子に会いたい一心で密入国を試みて哀れな最期を迎える。
これらの背後には、それでも彼、彼女らはアメリカを目指している、それが何故なのかという問題もあると思うが、本作ではそこには触れられていない。かわりに「帰化式典」での感動が、いかにも映画的な盛り上がりのためという作劇の中ではあるが、雄弁に語られる。
いずれもアメリカという国の現実の一断面を提示したものとして興味深く見ることができた。
ただ、アシュレイ・ジャッドの役回りだけはいささか疑問が残る。人権派の弁護士としてイスラム教の少女と家族のために奮闘するのはともかく、親に置き去りにされた少女を養子に云々、という話は必要だったのかという気がする。
他にも、ハミードを演じたクリフ・カーチスは好演しているし、強盗のシーンではぐっとくるものがあったが、妹の殺害というエピソードはいささか、わざとらしい感じがしたし、ユダヤ教の青年のエピソードはその結末は心温まるものがあったが、全体の中での位置がいささかあいまいだったような気がしないでもない。
そういう点ではもう少し脚本を練り上げる余地があったのではないかと思うが、全体としては良心的なよい映画だとおもう。
だが、あたかもハリソン・フォードが主演であるかのごとく押し出した邦題のつけ方は、「受け狙い」ということがあるにせよ、失敗ではないか。原題は「交差」という意味らしいし、それでは何のことかわかりにくいと思うが、もう少し、工夫すべきではなかったか。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。