[コメント] 炎上(1958/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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それにしても宮川一夫のカメラはすごい。
何がすごいのかわからないけどすごいと思います。
最近、たまたま宮川一夫さんの映画を見る機会が多いのですが、この作品に続いて見た『おとうと』や小津安二郎さんと組んで作った『浮草』など、その作品の監督の個性を生かしつつ、最大限の映像を画面にもたらそうとする姿勢はすさまじいものがあります。
この映画のクライマックスである炎上シーンにおいても、過度にならない燃え上がるシーンとともに、暗闇の中にメラメラ出てくる神秘的な映像は、やはりカメラマンの力も多いに寄与していると言わざるをえません。
この素晴らしい作品で、どうしても目につくのが仲代達矢さんが演じる不良学生の存在と、この学生と対極にある中村雁治郎の対極ですね。
この極端な存在に翻弄される主人公は、母からの呪縛から逃れようと必死になって美しい寺を守ろうとします。
市川崑作品で、直後に見た『おとうと』にも、得体のしれない母親像が登場しますが、元来家族の中心でありよりどころである母親がいずれの作品でも否定的に表現されていますね。
そんな中心軸を境に、善良に見せかける僧侶(中村雁治郎)と不良に見せかけながら現実主義の学生(仲代達矢)の言葉に押しつぶされて、この主人公は最も愛すべき美しい寺に火を放つんですね。
すでに大家族主義が崩壊して都市部を中心に核家族化が進んだ日本においては、存在する親よりも存在しない美しいものに惹かれる傾向があって、それが虚実ないまぜんなって狂気に至るという構図。
昨今の過激な殺人事件もそうですが、三島由紀夫自身の生涯も含めて、そんな日本の転落傾向を強く示唆したすごい作品だったと思います。
映画の斜陽とも重なって、日本の未来に暗い影を落とす、深い作品でした。
2010/04/01(自宅)
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