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[コメント] ココ・アヴァン・シャネル(2009/仏)

密度の高い映画美術の肌理は確かだがヒロイックなヒロイン像に監督の感情移入が余計なSO-SO伝記映画
junojuna

 伝記映画ともなるとその被写体となる人物の人生を再構成する視点のポジショニングに作品の良し悪しが左右されるというある種の制約が生まれるが、本作はその視点に一面的な照射しか見られず、反面、画面を構築する映画技術には質の高さが見て取れる分、鑑賞者に対してシャネルの伝説的な後光を前提として語るというスタンスの甘さがいささか浅薄な物言いとなって残念な作品であった。然るに監督のアンヌ・フォンテーヌは女優としての顔も持ち、本作品中、シャネルを通して立ちあがるフェミニズム視点の表層や、才能至上主義的でやや強引な人物相関の配置、さらには自己中心的に沈鬱するヒロイックめいた人物造形など、主人公シャネルに寄せるシンパシーが自らのエゴの投影として視野が狭まるというどこかナルシスティックで鼻につく風合いが素直に頷けない因縁となっている。共感から企図されるフィクションは充分にあって然るべきだが、より多面的な視点があってこそ伝説を豊かにする貢献というものだろう。作家至上主義の自己完結性の美学といえど、これではあまりに低廉な風采であるし、ややもするとシャネルを地に堕ちた偶像と意志に反して呈することになりかねない仕業であった。

(評価:★3)

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