[コメント] 空気人形(2009/日)
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まだ詩的情緒を味わうということに慣れていないもので、作中のシュールなシーンの数々には笑いが抑えられなかった。特にあのARATAが丸焼き用の七面鳥のごとく袋詰めで登場したシーンは、その意味をいろいろ考える前に笑いがこみあげてしまい、どうにも我慢できなかった。また中盤、板尾がラブドールに「私を本当に愛しているの…?」というような人間の彼女まがいのことを問い詰められるシーンは、もはや笑いを通り越して悪夢とも言えるシュールさであった。
是枝裕和という監督を信頼していただけに、観賞前の本作に対する期待は大きく、その期待が想像と違った形で表れたことを知った今、多少戸惑っている。ラブドールが心を持ってしまったのなら、そこに主に描かれるのは「性欲処理の代用品としての葛藤」だと勝手に想像していたのだが、実際に多く語られていたのは「(性的な部分は抜きにして)代用品として扱われる様々な人々の一般的な葛藤」であったことが意外であった。ラブドールという特異な人形が心を持ってしまった以上、そこには「好きでもないキモい男に抱かれる苦痛」なり「好きな人に抱かれるものの、越えられない人とモノとの壁」がねちっこく描かれていても良いようなものだが。単なる「代用品」をテーマにするなら、死んだ娘の代わりとして母親が買ったリカちゃん人形が主人公であっても話が成立するだろう。単に話題性を高めるためか、ペ・ドゥナのヌードサービスのためにラブドールを主人公に採用したのではないかという気がしてしまう。まぁ、この辺は原作がある作品だから監督の責任ではないのだが。あと、ストーリー中に思い出されたように挿入される社会底辺の悲惨な生活シーンも、昨今の派遣労働者に関する報道や各種のマンガを通してある意味見慣れたものとなっており、正直、今更感が否めない。
本作の評判は悪くないようだが、私の中では日本の未来の巨匠が作り出したカルト作に思える。繰り返しになるが、本作で描かれる風景は同時代人の私にとって新鮮味はあまりない。不謹慎な言い方をすると、数十年後是枝裕和が亡くなった後に業績を再評価される過程で、2000年代初頭の風景を独自の解釈で描いた作品として評価されるべきものだと感じる。今は、ただの変態映画としか思えない。変態としてのレベルは高いが。
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