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[コメント] さまよう刃(2009/日)

平岡正明が「江戸時代は民衆に復讐権が与えられた、稀に見る民主的な時代だった」と言っていたのを思い出す。益子昌一の語り口は実に巧みであり、最後の生き甲斐を奪われた男の心情に否が応でも観客を寄り添わせる。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







芸達者をそろえた警察側と、素人臭さがリアリティを醸し出す犯人側とに挟まれた寺尾聰に感情を寄り添わせるテクニックは、恐らく原作小説ゆずりなのであろうが、実に巧みに観客の心を惹きつける。

実際のところ、自分は少年法の大規模な引き下げを望むものであるが、死刑ならずとも真正の終身刑を持ってこうした凶悪犯には臨むべきだと思っている。それは犯人の更生を望むものでは勿論無く、クズにせめてもの償いをもって、生かされることを感謝させるためのものだ。三島由紀夫午後の曳航』はいまやフィクションに留まるものではない。あるいは、極刑を免れる代わりに人権剥奪をもって世間に放り出してやってもいいとさえ考えてしまうのである(要するに何処の誰であっても、その人間でなくなった「モノ」をいたぶっても、或いは殺しても何の罪にもならない存在とすることだ)。

しかし、現在の法律に照らし合わせる限り、そんな話は夢物語だ。竹野内豊の理想論に対し、伊東四朗が寺尾に与える最後の優しさは、彼を人間失格の一歩手前で崖っぷちから救った大人の結論だ。その冷徹な大人らしさに正義を掲げるものの矜持が見える。見事な結末である。

(評価:★4)

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