コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 当りや大将(1962/日)

序盤からラストまで、なぜか「雪の降る街に〜」というワンフレーズが何度も唄われる映画。ホルモン鍋屋のオバハン−轟夕起子から、タイトルロールの大将−長門裕之に唄い継がれる。
ゑぎ

 劇中なんの説明も無いが、オバハンが「雪の降る街を」の歌詞を覚え間違えていたということだろう。これには少々アザとい上に鬱陶しく感じられてしまうのだが、しかし、この歌の後半の長調メロディが劇伴としてようやく流れ始める瞬間には激しく感動してしまうのだ。

 本作は大阪駅前から始まるが、主な舞台は釜ヶ崎(西成あいりん地区)。画面造型上の特筆すべき点は、まずは何と云っても列車の画面への取り入れだと思う。どれだけ列車待ちをする撮影現場だったろうと感嘆しながら見た。鉄道に詳しくなくて残念なのだが、当時の釜ヶ崎周辺の様々な路線と車両(南海線、阪堺線、国鉄)が映っていると思われる。中でも、バクチ場になっている広場の後景に映り込む高架を走る3両列車は数えきれないぐらい映る。また、大将の住処(ぼろ小屋)の側を走る貨物車が実に良い場面を作っている。通過時の振動で目が覚めるというシーンが序盤であるし、オバハンの兄−加藤武が急の列車通過に驚くさまも可笑しい。

 列車に関して云うと、町一番の立ちんぼ、弁天のお初−中原早苗との神戸・六甲へのドライブ(念願のベッドイン)から帰った大将が、チビ勝(オバハンの子)−幼い頭師佳孝から土産を催促されて、電気機関車の玩具を買ってくるというシーンもある。この時、頭師はまだ7歳ごろだが(『どですかでん』が15歳ごろ)、この子の存在が本作を豊にしている側面は大きい(科白は聞き取りづらいけれど)。

 他にも良い場面は多々あるが、ホルモン鍋屋の屋台で、キリストと皆から呼ばれる刑事−浜村純と、大将を逐次登場させる長回しも良く、これに続く、手前に酒を呷る轟、画面奥に長門を映したディープフォーカスの仰角ショットも見事なもので、このシーン周りが全編のハイライトだと私は思う。あるいは、ショットだと、終盤になって大将が警察署を訪れ、公園にブランコを設置するようキリスト−浜村へ頼む場面の、暗い部屋に外光が反映する造型もいい。

 プロットは『生きる』へのオマージュのような様相を呈してくるが、ラスト近くの、画面四隅に白い紗がかかったように見せる回想フラッシュバックは余計だと思った。これはエンディングを弛緩させたと思う。とは云え、全体に姫田真佐久らしい生々しさを写し取った(荒々しいと云ってもいい)撮影と、中平康特有のスピーディな語り口が相まって、実に面白く見せる、良くできた作品だ。もっと名作として人口に膾炙してもおかしくない。

#備忘でその他の配役等を記述。

・新任の警察署長に嵯峨善兵。冒頭は彼の赴任シーン。

・大将の子分には、杉山俊夫玉村駿太郎近江大介杉山元がいる。

・バクチ場の広場を仕切っていて王様と呼ばれる山茶花究

・バー(というか売春宿)のマダムで武智豊子

・オバハンがチビのためにランドセルを買った文具店の主人は北見唯一だ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。