[コメント] キャピタリズム マネーは踊る(2009/米)
雪山で複数人で遭難したら、殺したい人を思い浮かべてお互いに下山したら殺しにいく約束をしたらいいという話を、何かで読んだことがある。怒りや憎しみは、窮地に立った人間の活力になるのだそうだ。
お金がないと、人間は弱る。本当に弱る。言うまでもなく、資本主義社会において貧者は弱者だ。
「みんなで戦おう」この映画でムーアが言いたかったことは、ただそれだけだと思う。戦うためには弱っているみんなが元気を出さなきゃいけないし、怒らなきゃいけない。そのためにはみんながこの映画を見なきゃいけないし、みんなが映画を見るためには、その映画は面白くなきゃいけない。
必要なのは、インテリジェンスとユーモアと勇気。言うのは簡単だけれど、それを実現するのは容易なことじゃない。家と仕事と7000億ドルを掠め取られた国民から、さらに映画館への入場料を取るのは、まったく容易なことじゃない。
それをやろうとしたムーアは、尊敬に値する映画監督だと思う。
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と言いつつも、私は経済にも政治にもまったく疎くて、ムーアの言っていることがどれだけ“正しい”のかは判断がつきません。映画『キャピタリズム』が資本主義のすべてだと、みんなが思い込むことの危険性を否定するつもりもありません。
それでも、この映画はアメリカにとって、日本やほかの先進国にとって、有益な作品だと思うんです。お金がなくて弱っている人たちが、まず怒って、元気を出して、行動を起こすことからでしか、何も始まらないと思うんです。弱っていても、人は生きていける。泣き寝入りしながらでも、死なない限り人は生きていける。でもこのままでは、確実に死が近づいてくる。ならば、座して待つよりは、いま強者のみによって行われている「システムのチェンジ」という大問題に、手を伸ばそうとする弱者はひとりでも多いほうがいいに決まってる。
ムーアの言う民主主義は、決して、強者を駆逐するべきだと言っているわけではなかったと思うんです。みんながシステムに参画するために、まずは弱者よ立ち上がれ、そこから始めようと、そういう映画だったと思うんです。そういう意味での平等を、彼は標榜したと思うんです。
だから、苦しんでるアメリカ人はみんなこの映画を見ればいいと思うんです。見て、笑って怒って、いっぱい考えて、行動したくなったなら、そうすればいいと思うんです。その先のことなんて、キリストにも誰にも解らないけれど。
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それにしても、こんなにひどいアメリカよりずっと自殺率の高い日本っていう国はいったいどうなってんだろうって思いますよ。私たち日本人が自分ばかりを責め、自分ばかりを裁くことに慣れてしまったのは、もしかしたら信仰を持たないがゆえなのかもしれないし、その原因はムーアが劇中で「ルーズベルトの理想は日本では実現されてます」と語った何かと引き換えに奪われていった何かなのかもしれないとも妄想しますけど(あくまで愚かしい妄想ですけど)、ともあれ、今はこの国の弱者たちをひととき奮い立たせるような“和製ムーア”の出現を切望するですよ。
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