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[コメント] パレード(2010/日)

笑いながら堕ちるか、泣きながら降りるか──観客のいないパレードは、さまよいながら断崖絶壁に突き進む。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 若者同士のルームシェアなんて言ってるけど、これ実際に家賃(たぶん10万以上)払ってるのは直輝ひとりなんだろうな、ということに気づいてから、俄然この風景が気持ち悪くなった。

 直輝という人物は自分の好きな仕事に就き、外国のスタッフを電話一本でウディ・アレンのインタビューに派遣するほど優秀で、何事もクールにこなし、収入だって安定しているはずだ。昔の恋人とも付かず離れず、うまくやっている。そういう28歳の男性が若者3人を部屋に住まわせているというだけで、これはかなり異常な状態で物語が始まっているということだ。

 さらに、そんな直輝が劇中、二回だけうろたえるシーンがある。一度目が、良介がバイト先で「部屋を出て彼女と実家に戻ろうかと思ってる」と告白する場面で、二度目が、酔った未来が「そろそろ部屋を出ようと思う」という場面。二度とも直輝は「え、なんでそんなこと言うの?」という顔をして、絶句してしまっている。直輝にとってこのパレードはモラトリアムではなく、ともすれば永遠に続くかもしれない“必然”の風景なのだ。

 3人の若者はそうした直輝の歪みに最初から気づいている。だからこそ琴美は「嫌なら出て行けばいいし、いたければ笑ってればいい」と言う。それは、このパレードへの厳密な参加資格だ。そうして直輝というモンスターが主催するパレードの利用価値を値踏みしながら、彼らはしたたかに笑い続けている。飼い慣らしているのは3人のほうなのだ。その「1対3」の関係を、まるで同種の人間であるかのように画面のなかに閉じ込めた行定監督の今回の仕事は、実に冴えていた。

 *

 ラストシーンの演出は圧巻だった。直輝が生き分けていたはずの3つのバースは、サトルの「みんな知ってるんじゃない?」という一言で、ユニに収斂される。直輝はそこで、見たこともない同居人の顔々を見ることになる。「あんたも旅行、行くでしょ?」それはパレードの主催者に対する、死刑宣告だ。

(評価:★4)

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