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[コメント] わが生涯のかがやける日(1948/日)

これは思いのほか面白かった。ウィキペディアには「脚本段階でGHQから、完成後は検察庁からの検閲で大幅にカットされた」とあり、勿論、映画の作り手にとっては忌々しきことだろう。
ゑぎ

 しかし、カットされたのは、もしかしたら我々観客にとっては結果的に良かったのかも、と思ってしまった。それぐらい、簡潔なプロット運びで、無駄の無い作品になっていると感じたのだ。カットされたプロットを勝手に妄想し、それが敗戦前後の森雅之宇野重吉の状況説明の部分だったと考えると、そんなものは、今見ることのできる版の通り、簡潔なフラッシュバックや少ない回想セリフだけで十分じゃないか。あるいは、戦時中の軍の隠匿物資に関わる描写だったとしても、やっぱり説明的に過ぎるシーンだったのではないかと思うのだ(勝手な推測に過ぎないが)。

 私が面白いと感じたのは、主人公のヤクザ−森雅之とボスの滝沢修、滝沢が目を付けた女−山口淑子、この3人の関係の変転とそれをスピーディに見せる演出だ。特に、森が山口に魅かれ、滝沢を裏切る心境変化の理屈のなさ(というか天邪鬼さというか)には呆気にとられた。こういう部分をトンデモだということも可能だが、森と山口が魅かれ合うのは、あらゆる理屈を飛び越えて、2人が映画の主人公だから、その一点なのだ(ちなみに、このメロドラマ部分が当局によってカットされた残骸ということはないだろうと推察する)。

 また、滝沢と森のキャラ造型が本作の面白さを支えている点は大きいだろう。まず、滝沢の登場が、村田知栄子と激しくキスをするシーンで刺青のある背中のショットというのが良い演出だと思うが、さらに、その髪型、顔の傷、歯並びといったメイクや、いつもと違った喋り方など、強烈な個性を作っている。対して、森のやさぐれたヤクザのセクシーさも絶品だと思う。彼と山口のシーンでは、撃たれた傷を山口が手当した後に、山口がベッドに横臥する場面がいい。こゝの彼女のヘソ出しニットセーターも実に効果を発揮する。

 あるいは、良いショットということだと、森が銃撃されるシーンでの、暗闇で銃口が発光するショット(列車の通過音に紛れて発砲されていることを表現した画面造型)だとか、宇野と清水将夫が橋の下で決斗する場面で、森が高い所に立っている仰角気味のショットなんかを上げたい。

 しかし、終盤はひどい。特に山口の科白や口調がお嬢様みたいに変化してしまう演出がイヤらしい。それに最終盤は蛇足の感しかしない。もっとも、タイトルを科白で提示する部分があるので、これをカットするのは難しかったかも知れないが、であればこの科白が不要だし、こんな理屈っぽいタイトルだって変えてしまえばいいじゃないか。森と滝沢の対決場面の後、すぐにエンド、ぐらいで丁度良かったと思う。

#備忘でその他の配役などを記述。

・山口の父親は政府の重臣で井上正夫。アバンタイトルと写真のみの出番。

・滝沢の仲間の森山さんは加藤嘉。酒井さんは山内光か。

・序盤で山口とキャットファイトを演じるのは逢初夢子

・森を兄貴と呼ぶチンピラには、三井弘次殿山泰司清水一郎がいる。前年の『安城家の舞踏会』では老け役だった殿山が本作では若い。

(評価:★3)

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