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[コメント] 月に囚われた男(2009/英)

システムにとっては重なりあってはならなかった時間と時間が真実を導き出す。ボタンの掛け違いがもたらす破綻のサスペンスが繊細でこなれている。 ネタがバレてからの情感が本番という姿勢も好感度大で、悠久の残忍とヒューマンな落としどころに手塚的快感・・・というか快感以前にじんと来る。いい映画。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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記憶と実存を巡るクライシスは既存のトレース的だが、人が人としてあるための情報は、膨大な質量を必要としながら根拠はあいまいで脆弱で、あっさりと代用品にとってかわられてしまうという観察のなぞり方は正しい。「写真」というアイテムの圧倒的な威力。

ただ、弱さへの視線は厳しくない。脆弱だからこそ大事にしたいんだよ、嘘じゃなくて本物に触れて「実感」したいんだという叫びにこそ人間味が宿るのであって、そこに共感を導く演出だからこそ、ビデオレターや模型といった虚像・代用品にすがりつくシーン、近いようで遠い地球の星影が切実に胸に迫る。

俺はシステムの一部(プログラム)じゃない、というサムの台詞に対して、慎ましやかかつ重要な反乱を演出するガーティが、再起動後もあくまで「プログラム」であることを継続する(偽装している?)シーンにじんと来てしまう。あのニコニコ顔こそが究極の孤独のあらわれであるようにも見え、切ない気持ちにさせられる。

この感覚って、『天空の城ラピュタ』の、遺された「最後の園丁ロボット」のシルエットに感じるものに近い。「火の鳥」の「復活篇」(月面のロビタ)を彷彿とさせるシーンも各所に散見される。おおもとの着想はここにあるかもしれない。とにかく、遺される者への慈しみがにじみ、切ない余韻を残す。

あと、楽曲が地味〜にいいですね。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus peaceful*evening 3819695[*] 煽尼采

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