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[コメント] 日本暴力団 組長(1969/日)

死守せよ。(私的深作欣二論その1)
町田

これはまだまだ初期作品。悪い意味でとても「軽い」作品だ。

それは深作がデビュー当時意識していたという日活アクションに特有の、あの「軽薄」ともいえるような「軽々しさ」だ。後の深作作品を貫くあの華々しい「軽やかさ」では全くない。

1967年の『解散式』は、カーク・ダグラスが時代遅れのカウボーイを演じた『脱獄』によろしく、時代遅れの渡世人とその最期の対決を描いて、ある種の荘厳さを獲得するに至った作品だ。

それがこの作品からは失せている。それは何故か?

それはこの主人公には「死守するもの」がないからだろう。仲間?彼を慕ってくれる子分たち?

そんなものを描いた映画なら吐いて捨てるほどある。戦争映画は大体そうだし、従来の仁侠映画だってある意味ではそうだ。

必要なのは「美意識」なんだ。それもとびっきり頑なな。この主人公=塚本にはそれがない。任侠なんて滅びりゃいい、なんて思っているんならサッサと止めりゃいい。「昔のしがらみ」になんかに押し流されて、中途ハンパに躍ってんじゃないよ。

深作欣二座右の銘はイギリスの舞台演出家/映画監督ピーター・ブルックの名言「Hold on tightly, let go lightly(死守せよ、だが軽やかに手放せ)」である。

彼と彼の作品、彼の描く主人公がその名言を実践するまでには、あと数年を要する。

(評価:★3)

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