[コメント] 告白(2010/日)
松たか子アクトの白眉かとも思われるくらい情熱に彩られた長芝居ののち、数多の血の奔流は流され、惨劇は繰り返される。微温的に傾いていたこの頃の中島作品へのフラストレーションを吹き飛ばすかのように、この作品には「軽やかな」悪意がこれでもかとばかりに頻出しまくる。しかしその描写は実に朗らかで、見終えてから快哉すら叫びたくなってしまう構造を呈している。
子供たちの願望は、自ら振り返れば判ることだが極端なエゴイズムとナルシシズムに端を発している。周りを取り巻く有象無象は悉く馬鹿であり、己とその愛してやまない存在以外は存在価値すらないと断じて憚らない。それが怪物的な牙を剥いてきたとき、オトナはその甘ったれた自己愛の怪物を生きてきた年数を武器に打ち倒す。まして子供のために総てを奪われたオトナ…松たか子には、獲物をとるに充分過ぎる時間すら武器となる。…三島の『午後の曳航』を引き合いに出すまでもなく、早熟な少年には限られた「庇護されるモラトリアム」=少年法時代が武器であり、その間隙をついて攻撃するのがベストであることを松は知っている。それがオトナの戦法だ。松にもはや帰るところはないがゆえに、その復讐は苛烈極まりない。
その復讐をあたかもメリーゴーラウンドのように彩った画面と、些かの虚構性にも臆さない見事な脚本は、いずれも未だ中島監督がとんがった思考法を捨てていない証明となる。そのしたたかさは、子供を叱る方法を奪われた現代のオトナに暗い欲求に照らされた蛮勇を教える。中島がここに来て大人のための作品を仕上げてくれたことがうれしい。寓話的ながら、これは子供には見せられない陰湿な願望に満ち満ちている。中島の絶望を装う子供への挑戦は、オトナ総ての背負う欲求の代弁である。
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