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[コメント] ザ・ウォーカー(2010/米)

画調にしても奔放なカメラワークにしても、どうやって撮ったのだろうと疑問と興味を抱かせる(=撮影とポスプロ作業の境界が見極め難い)画作りはドン・バージェスの仕事。画面全体に占める「空」の面積の大きさが強く目を惹く。往年の西部劇を探しても即座には見つけられないだろう、大きな大きな空の映画。
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**ネタバレ注意**
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前半はデンゼル・ワシントンの無敵ぶりの楽しさが映画を牽引する。現代ハリウッド映画でこれほど緻密な殺陣を見せてもらえるなんて期待していなかったし(コレオグラフィのクレジットには日系人と思しき人名が並んでいましたね)、その他のアクション・シーンも今どきのヴィジュアル感覚と正統的な身体演出がよく手を取り合って、じゅうぶん満足できるだけの充実ぶりを示している。後半部における『ガントレット』で『アウトロー』な籠城銃撃戦はまずその展開自体が意表を突いて嬉しくなるが、老夫婦のキャラクタの面白さもあいまって、アクション映画としての『ザ・ウォーカー』のクライマックスにふさわしい演出密度を誇る。

ヒロインのミラ・クニスにも好印象を持つ。ゲイリー・オールドマン一味の自動車を手榴弾で爆破するあたりが特にいい(手榴弾を投げてからのトコトコ走り!)。しかし、もうひと頑張りできたのではないかという思いも拭い去れない。もっとワシントンと対等に扱ってもよいキャラクタだったと思う。ヒロインとしての覚醒が少しく遅すぎたとでも云うか。

ところで、仮にこれが純粋活劇を目指した映画であるならば、「書物」は争奪戦を展開させるためだけに働くマクガフィンでなければならない。しかし映画は「書物はマクガフィンなんかではないよ。むしろテーマだよ」と強弁する。それのどこまでが本音でどこまでがポーズであるのかを判断するのは難しいが、終末世界版『座頭市』かマカロニ・ウエスタンかといったアクション劇から出発して、生死の境をさまよう『デッドマン』的ボート行で逆『アルカトラズからの脱出』な航路を進んで最終的には『華氏451』を繰り出すという展開力には率直に恐れ入ってしまう。もちろん引き合いに出すべき作品としては『デッドマン』や『アルカトラズからの脱出』より、あるいは上の『ガントレット』や『アウトロー』より適当なものがあるかもしれない。ともかく、いずれにせよ『ザ・ウォーカー』には映画史の蓄積に拠って立つ強みがある。そしてそれ以上に、そのことを頭でっかちな披歴に終わらせず、観客本位の娯楽映画として消化するサーヴィス精神の頼もしさがある。

(評価:★4)

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