この作品の画期的なところは、新次元のアクションもさることながら、「夢」にきっちりと制約の「たが」をはめたところにあると思う。観るものが覚えなければならない事柄はかなり多い。階層と時間、そして深層心理との関係性、夢に変更を加えることの意味、夢の中で死ぬことは鎮静剤を使用することで単なる覚醒から「精神的な死」へとその意味を変えるということ。しかし、これらの制約に厳密性を持たせることで単なる夢が優れたエンタテインメントへと変貌を遂げる。

これまでのように夢を「夢のように」描いたものは最後のところで「夢なんだから」という部分を押しつけられていたような気がする。この作品は一見、「夢」という物件になじまない足枷を敢えてつけることで、却って夢というものをよく描いているように感じた。

アクションと平行して語られるそのドラマ性の高さにも驚く。男が囚われたこころの迷宮。崩壊してゆく迷宮の最奥で密やかに行われたのは喪の仕事だった。この観念的とも言えるシークエンスも実にクリアに描き出されている。まさに夢のように。

…そう、僕らは夢を見ていたんだ。いや、今が夢ではないと誰が言い切れるだろう。僕らは時として手に持ったコマをまわして確かめてみたくなる。しかし、と最後にメッセージが呈示されたような気がした。それを決めるのは自分自身なのだ、と。