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[コメント] [リミット](2010/スペイン)

観る者を選ぶ低予算(でもないんだけど)社会風刺映画。
BRAVO30000W!

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







狭い場所に閉じ込められちゃった上に脅されてまんがな系では『フォーン・ブース』(『ソウ』を想起した人もいるようだけど)あたりの記憶が残っていたが、これは棺桶ということで、これ以上狭いところはそうないだろ的な監督のドヤ顔が目に浮かぶようだが、実はこの映画を見て私が思い出したのは『インディペンデンス・デイ』や『ゾンビ』である。

スペイン人監督が痛烈に現代アメリカの世相を風刺しているように見える。時代設定は折しもアメリカの住宅バブルが弾ける直前の2006年。心の病におかされた「認定」を受けた低所得労働者である主人公は、安全が保障されていると言われてるもののまだ完全には安全とは言えないイラクにトラックの運転手として故郷に妻と幼い息子を残して働いている。社会の底辺ギリギリにいるアメリカ人労働者の代表だ。

それがアメリカ人というだけで誘拐され、場所もわからないような砂漠の下に埋められ、米国大使館に身代金支払要求を見知らぬ犯人から依頼される。主人公は現代人らしくケータイ(Blackberryだからスマートフォンか)を駆使してあらゆるところに電話をかけるが、聞きたい声はなかなか聞けないし、テロ対策担当者には「テロとは交渉しない」とお決まりの言葉を返されて為す術もない。

このテの作品はなんだかんだ言いながらも最後には救出されて「大変だったね」で終わらせるのが定石とも言えるが、それはハリウッドの世界のこと。この映画はスペイン映画だ。最後は一瞬救われたように思わせておいて、結局救われない。救済を求める映像はYouTubeに流れはしても、結局1週間もすれば忘れ去られてしまう。我々の知らないところで半ば棺桶に足を突っ込んで、為す術もなく死んでいく人は大勢いる。表向きは華やかなアメリカにおいてもそういう人間はいる。そして、人知れず悲しく死んでいっても、アメリカでは能天気な音楽が流れている。

観る人によっては冗長な密室劇にしか見えないだろう。特に日本を始めとするアジア圏において、主人公に共感する観客など圧倒的に少ないかもしれない。はっきりとした前向きなメッセージを欲する観客には物足りないだろうが、強いて言うとするならば「自分の国を信じるな」ということだろうか。

(評価:★4)

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