[コメント] ヒア アフター(2010/米)
宣伝では大作のような扱いだが、基本は穏やかで美しい物語だ。たぶん意識して加工された抑え目の色合いが作品とマッチして効果的。皆、心に小さな哀しみを持っており、それを互いに支え合って生きている。マットの存在は出しゃばりすぎず、かといって埋もれもせず、実にいいポジションにいる。そして何より半分以上をフランス語で埋めた本編の英断に拍手。
未曾有の天災後、冒頭の津波のシーンの影響で上映中止となった本作。自分も観たかったのだが、見過ごしてしまった。現在も日本ではDVD化さえ未定のため、自分は英国のサイトからBlu-Rayを購入し、観ることができた。日本語字幕入のdiskだったが、津波のシーンのメイキングでその特殊効果の出来を褒め称える部分がある。津波自体を褒めているようにも見え、これは日本ではカットされるか、やはり当面発売されないかのどちらかだろうと思えた。
しかし、作品自体は穏やかな素晴らしいものだ。(事件はいくつかあるが)大きな起伏として見せていないため、淡々と進む。でも、ずっと見ていられるのは描き方が丁寧だからだろう。
そして、何よりも英語以外の大幅な採用だ。『硫黄島からの手紙』や『グラン・トリノ』でも思ったが、米国映画でここまで大胆に字幕を採用している監督はそうはいない。吹き替えが通例の米国でだ。自分もそうなのだが、ニュアンスや会話の間が大切なドラマでは字幕で観る。逆にアクションやコメディでは吹き替えで見たほうが画面に集中できる。ゆっくり進む本作では字幕に追い立てられることもなく、米国観客も作品を堪能できただろう。これを堂々と行うこの監督の挑戦は、もっと評価していい。
※2011年10月にDVD日本発売が決まったらしい。震災後の今日、本編を見た上でどう評価されるか興味深い。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。