[コメント] イリュージョニスト(2010/英=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
確かに、宮崎駿、高畑勲によるスタジオジブリ作品は
海外のクリエイターからも高い評価を受けているし、
ポケットモンスター、クレヨンしんちゃんに代表される
子供向けアニメーションの知名度は海外旅行のたびに思い知らされる。
自国のアニメーション文化に対する日本人の認識は間違いではないだろう。
しかしその一方で、国内マーケットが充実しているだけに、
海外のアニメーション作品に触れる機会が極端に少ないことにふと気づく。
「ジブリ作品をすべて見ています」
「子供のころから日曜日のサザエさんを欠かしません」
という、日本人としては一般的な濃度でアニメーションに触れている人々に
「では、ここ3年の内に海外アニメーション作品を観ましたか?」
と問えば、その結果は想像に難くない。
ハリウッドと同じで、自国のマーケットで充足している観客は
兎角亜流に対して嗜好性の門戸を閉ざしがちであり、
日本ではこのアニメーションという市場がまさにそれにあたる。
しかし!
本作『イリュージョニスト』は
そのような狭窄な視野で排除してしまうには
あまりに惜しい傑作アニメーションなのである。
イントロダクションは、立派なHPが用意されているので
そちらで見るといいだろう。
『サマーウォーズ』で興業的にも批評的にも高い評価を受けた
アニメーション映画監督の細田守さんがラジオ番組で
「そこにキャラクターが実在するように見えることが、
アニメーションの快感である」といった主旨の発言をしていた。
羽毛布団に入れるための羽毛が舞い上がるのを見て、
雪だと思い、老手品師のために火をくべる優しい少女。
老手品師と旅に出て、初めてお洒落な服に袖を通し、
ハイヒールをはいてたどたどしく歩くその姿。
一人の青年と恋に落ちる瞬間が、
髪を下ろすという何気ない仕草で表現される。
彼女の元を去っていく老手品師。
過ぎゆく時代の中でその変化を柔らかく受け止めるその姿に
小さくなっていく父親の背中と白いものが髪に交じり老いていく母親の横顔
を思い出さずにはいられない。
すべてのキャラクター、すべてのシーンに
確かな実在感がある。
健やかで、甘い、映画的快感を十分に楽しめる一本だ。
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