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[コメント] カウボーイ&エイリアン(2011/米)

製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ作品の中でも、お前が撮れよ感はひときわ強い。スピルバーグ+ヤヌス・カミンスキーの西部劇なら、馬鹿げた物語に『宇宙戦争』級の絶望をぶち込んでクリント・イーストウッドブルース・サーティース(or ジャック・N・グリーン)に迫ることもできたのではないか。
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西部劇に対して並々ならぬ執着を抱いているスピルバーグ。このたび演出に臨むジョン・ファヴローに対してはジョン・フォードを教示したらしく、その見立てはさすがに確かだが、本人は『許されざる者』を超えることができる確信でも持てぬ限り、西部劇には乗り出さないつもりかもしれない(そんな機会がそうそう訪れるとも思えないけど……)。「この程度の脚本であればとりあえずファヴローあたりにでも撮らせて様子を窺うとするか」とでもいったところか。

ともあれ、個人的にはとりわけ強い思い入れを持っている人ではないにせよ、存命中の俳優では間違いなく世界最大級のスターであろうハリソン・フォードの西部劇を見られる喜びをひとまずは噛み締めたい。これまでハリソン・フォードが主演級の役を務めた西部劇は、私の知る限りではロバート・アルドリッチフリスコ・キッド』一作のみだ。彼が西部劇に対する情熱をせめてケヴィン・コスナー程度に持っていたならば、八〇年代以降の西部劇史は相当に異なる展開を見せていたかもしれない。

さて、もう少し具体的に映画について触れるならば、ハリソンとアダム・ビーチ(『父親たちの星条旗』のアイラ・ヘイズだ!)の血縁のない父子関係、祖父をさらわれた少年ノア・リンガー(『エアベンダー』の小僧だ!)や屁垂れ医師サム・ロックウェルの活躍など、物語の心地よい部分を弁えたファヴローの演出は好ましい。ファヴロー、ダーレン・アロノフスキースパイク・リーの監督作を多く担当するなど仕事の傾向に一貫性を見出しがたいマシュー・リバティークも西部劇の風景を期待以上によく撮り収めている。

一方で、そのような古典的西部劇から逸脱した要素、したがってこの映画の眼目でもあるはずの要素の演出はいささか浮足立って落着きがない。エイリアンとの戦闘シーンはファヴローの実力からすれば上出来のアクション演出で凌いだと思うが、そもそもダニエル・クレイグの存在の謎(何者なんだ? なんで記憶喪失で、しかも変な腕輪つけてるんだ? もしやこいつも宇宙人てパターンかえ?)で観客の興味を引っ張る算段に誤りがあったのではないか。というのは、後になって明かされるその謎の答えが思いのほかしょうもないというのもあるけれども、それがためにエイリアン成敗の旅に出る彼らの感情、すなわち家族をさらわれた者たちの怒り・哀しみ・恐怖が上手く焦点を結ばないからだ。だから意想外に感情演出が首尾よく行った例(ハリソン-ビーチやロックウェル)ばかりが際立ち、他方では、たとえばオリヴィア・ワイルドが涙を誘うはずの自己犠牲を見せてもまったく心を揺さぶられないという事態が起こる。

まあ、そんなこんな云いながらも全般には面白く見ていたのだけれども、役職が監督ではないにしてもこれがスピルバーグの(そしてロン・ハワードの)本気の西部劇だとは思いたくない。彼にとってはハリウッドで西部劇を制作しやすくするための地ならしに過ぎなかったと信じたい。

(評価:★4)

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