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[コメント] リアル・スティール(2011/米)

近未来を舞台にした、これもまたひとつの『ロッキー』へのオマージュの形。ロード・ムービーとしても楽しい。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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いい映画にはいい雨が降る。これは子どもの頃に『羅生門』を観て以来の自分の中でのセオリーなのだが、本作のアトム発見のシーンには本当にいい雨が降っていて、それだけでその後の展開には期待が持てた。いや、全体を通して撮影はよかったと思う。特に朝焼けの一瞬の美しさをしっかりと、それも嫌味でない程度に切り取っているところや、夜を夜と、しっかりと撮れているところも好きだった。

物語的にも、こういう映画は最後まで定石が崩れてはいけないのだが、それがちゃんとわかっているのがいい。特に脇役として大切な役割を示すベイリーという女性の存在に、全篇通したしっかりとした芯が通っているところには感心した。まず最初にアトムが勝ったときには「勝ったと知らせたくて」と電話したり、ただキスのために2000キロを往復したりといった伏線があるから、最後チャーリーがボクシングしているかのような姿を彼女が見つめるシーンが効いてくるのだ。

また、親子とアトムとの物語に熱中していた頃に突然やってくる子どもの返却期間という設定も、わかってはいても「ああ、そうだった」というドキドキ感があったし、そこで少年が叫ぶ「僕のために戦って!」という一声にベタだが感動してしまうのは、物語の運びがうまく進められていたからなのだろう。

またそれだけでなく、細かいカットにまで粋な計らいがされているところにも好感を持った。例えば朝まで1人でアトムを掘り起こした子どもが父にパンチを食らわそうとするところや、子どもとアトムが散歩に出るところ。また、シャワーやアトムとのランニングの際に水道管を蹴って水が噴き出すシーンといった何気ない水の見せ方や、アトムが鏡で自分の姿を見ているところや、肩を痛がるというユーモアあふれるシーンなどには、本当に心すくずられるものがあった。

もし批判があるとすれば、クライマックスのゼウスとの対戦にやや緊迫感が感じられないところなどがその主因として挙げられると思うのだが、自分はあれはあれで全く問題ないと思っている。というのも、こういう結末がわかっている映画で大切なのはそこに行き着くまでのプロセスなわけで、例えば『ロッキー』もそうであったように、その戦いぶりがどうであろうと、そこはもうオマケに過ぎないのである。だからそのあたりを、それこそ『ロッキー』に習った作りにしたのは賢明だったと思うし、最後の最後、物語が終わった後にタイトルを出すという締めも、同じボクシング映画の極北たる『ロッキー』へのオマージュをも感じて鮮やかだった。

(評価:★4)

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