とはいえ、まるっきり「パトリシア・ハースト事件」な後半の展開は、それでいいのだろうか。マカヴォイ似の大富豪総裁が言う通り、いくら時間（金）をばらまいても、解決にはほど遠い。あの大富豪さん自身だって、いわばその仕組みに組み込まれた歯車にすぎない。命そのものが貨幣の様に統合管理される事自体が問題なら、その仕組みの中心を考え直さなきゃいけないのではないか。・・・って、それじゃ『モモ』とまるで同じだけど。（『さよなら銀河鉄道９９９』みたいなのは勘弁してほしいな）

　いや、そういう事は監督自身がいやほど自覚していたのかもしれない、作中でもあれほど頻繁に提示される、「君の親父さんは実は」の伏線は充分回収しないままだし、タイムキーパー側の思惑、細かい事だけどなぜ１０９年が知らない間に２５０年になっているのか等、３分未満で蓋を開けられたカップラーメンの様な印象を受けた。（思えば『ガタカ』もそうだった）

　やはり、あまりにも生々しいと問題なのだろう。どうでもいい事だけど、自分なら、コメディ仕立にする。現実に肉薄にしたこのＳＦ題材を、コメディで表現したらどんなに面白い（怖い）だろう。と思うのは自分だけかもしれないが。

　例えば残り時間が少ない主人公が、素人丸出しの芸で時間もらって回ったり、時計を止めようと色々研究するオタクのアパートに紛れ込み、アルミホイールで全身くるんで生活する人や、「イタイイタイイタイ」言いながら腕を掘り進む人とか見て脱力とか、しらならい間に大富豪さんも一緒に悩んでたりとか・・・ダメか；

　とはいえ、主人公達の文字通り「１日１日がギリギリの生活」の描写は、ある面では現実の描写より生々しく、本当にこれだけではもったいない作品だと思う。できれば完全版や最終版を見たい・・・ニコル監督の残り時間が心配だ。