[コメント] メランコリア(2011/デンマーク=スウェーデン=仏=独)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この監督の作品は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』以来です。この映画を見てしまうと、あの映画の方がよっぽど明るかった。(暗い映画でしたけどね)
当時の自分のコメントを読み直しますと、「盲目の少女が主人公の映画ということは、映画は心で見るものだ」とかなんとか書いているんですけど、あれは暗い映画でありながら、目の見えない少女の心象をミュージカル形式で見せる映画で、しかも共演がかの大女優カトリーヌ・ドヌーブだったりするものですから、暗い映画でありながら明るさを仄めかす瞬間があった、と思いますね。
しかしながらこの映画。
絶望の瞬間を延々とつなぐ大作。
特に冒頭のシーンとラストは全く救いがない。
そんな映画なのに、現代社会のすべてを一言で表現してしまう迫力にあふれる作品でした。
腰を抜かしました。(ホントに)
この監督は敢えて画面を固定しないで、登場人物の動きを揺れながら追いかけるようです。
この表現にはすでに不安がつきまといます。
だから、前半のほとんどを費やす結婚式にいたるまでの見事なシーンも非常に不安定。だから画面で起こることのすべてがどんどん不安に陥るような仕組みになっているんですね。
後半は狂気と恐怖。
その心象を描く壮大な惑星が迫りくるシーン。
すべてが崩壊する瞬間を目の前に、正常な人々が恐怖と狂気におののき、精神的に異常を抱える人の落ち着き払った姿。姉と妹。この立場の逆転。運命の逆転。
この地球崩壊の恐怖を受け入れる妹と受け入れがたい姉の葛藤がドラマのすべてですね。
もっと掘り下げると、生と死。
生きることに固執して、すべてを儀礼的に秩序を保とうとする姉と、インスピレーションで生きている妹。
この明と暗。
素晴らしい対比。
いずれも現実社会全体として捉えると、とても正常には思えない。
となると、どちらを向いても狂気が渦巻いている社会。
そこに押し寄せる惑星は神か悪魔か。
妹が会社の上司に途中で文句を言うシーンがありますね。あの言葉が暗示するもの。それは、
無
ですね。「あなたは無以下よ」という言葉。すべては無に帰する。
仏教的な思想もあいまって、深層心理と社会現象を一気に纏め上げる手法は狂気そのもの。
奇跡の映画ですね。
恐れ入りました。
過去の名監督のいいとこどりとも言えますが・・・
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。