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[コメント] 戦火の馬(2011/米)

スピルバーグならここで終わって欲しくなかった。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 言うまでもなくスピルバーグは超一流監督である。この人が開発した技法は映画を進歩させ続けてきたし、たとえどれだけ金持ちになろうとも40年以上も映画の最前線で戦ってきた。その映画にかけるモチベーションだけでも感動ものなのだが、常に新しいものを求め続けてきたのもこの監督ならではだろう。

 そんなスピルバーグが最新作に選んだ作品は原作付き。しかも実話を元にした児童文学という。はてさてどんな作品が出来るやら…

 ところでスピルバーグが作った作品で傑作と言われるものを改めて考えてみると、それらは全てかなり特殊な作り方をしているが、一つ一貫していることに気づく。

 それは単純に言えば「視点」というものをとても大切にしていると言う事である。かつて私は『ジョーズ』でその特殊視点について少し触れたが、それだけでなく、例えば『E.T.』では完全にE.T.の視点でカメラ移動させているし、『太陽の帝国』では一貫して子供視点だけで戦争を描いている。どの作品を観ても、そこにこの監督の特徴を感じることが出来るわけだ。だから本作もその意味で観るならば、監督らしさに溢れた作品とは言える。

 なんせ今回は視点が馬である。それこそ『太陽の帝国』の時に少年目線で見た戦争を、今度は馬の視点で見せようというのだから、その意気の高さは認められる。

 …でも、それが正解だったか?と言うと残念なことにその点で言えば失敗したとしか思えない。劇中でも言われていたことだが、主人公が犬ではなく馬にしたことで、執着心が失われ、ただ淡々と周りの状況を眺めているだけの存在に成り下がってしまい、細かい物語の一つ一つを深めることが出来なかったし、心情に踏み込ませることも出来なかった。

 例外は元の飼い主アルバートで、このキャラに関してはそれなりに時間取って心の交流まで描くことが出来たものの、それはこの映画の本質からは離れてしまい、結果としてありきたりな出来に落とし込む結果になった。

 本作の作り方であれば、馬の視点から人間を眺め、戦争がいかに馬鹿げているのか、人間の努力はどんなアホらしいことも叶えてしまうのか。その辺を掘り下げることも出来たはずなのだが、そこが中途半端になってしまっては駄目だろ。

 正直この作品に感動はいらん。ただその視点のユニークさで考えさせて欲しかった。

 …まあそうは言っても、さほど低く評価する気にもなれないんだけど。それなりに実話感動ものとしては物語は上手く機能してるし、演出の良さは相変わらずだから。だけど、スピルバーグに期待したものを回収できなかったのがもやもやが残るだけだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus おーい粗茶[*] chokobo[*]

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