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[コメント] わが母の記(2012/日)

隅々まで神経の行き届いた端正な画面。この端正さは、ちょっと比類ない。映画って、これだけで案外観られるものなのか。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







話は、いわゆる年代記もの。主人公の母親のことばかりが描かれるわけでないから、タイトルはちょっと変だが、年代記ものの陥りやすい散漫さと、年代記ものに必要な重量感と、両方ある。

信頼が置けないと思うのは、たった一つのエピソードで豹変してしまう主人公像だ。長年、母を「本質的には許していない」と思って生きてきたのであれば、それに応じた日常を積み重ねてきたはず。そういう日常で身にまとったものを、簡単に脱ぎ捨てるというか、捨て去ってしまう人格に、だ。

あるいは、その後、母と暮らす中で、母からの愛情を身に染みて感じるという体験は、他に一度もなかったのだろうか。まるでなかったのだとすれば、「誤解が解ける」という状態に至ることもないはずだから、これはこれで矛盾だ。

こういうこと、豹変とか、誤解が解けるということそのものは、起こりうると思う。起こると思うが、誤解を解く鍵は、誤解してきたことの中にこそあるはずだ。

息子の嫁にだけ何十年も前に真相を伝えていながら、息子には何十年も伝えていない。あるいは何十年もの間、息子にだけ伝わっていない。もしくは、母の失踪を知るのと、事の真相を知ることが、同時に起きる。これらの設定は、物語に格好をつけるための苦し紛れとしか見えない。

そうは思いながらも最後まで惹き込まれて見てしまったのも確かで、たいした画力だと思ったことだった。

また、樹木希林のボケ老人芝居には、鬼気迫るものがあった(ハイ)

80/100(13/03/27記)

(評価:★4)

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