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[コメント] 傷だらけの栄光(1956/米)

ルールを無視して生きようとするロッキーをどこまでも追いかけてくるルール。ロッキーの奔放なエネルギーに対して世界は狭すぎるようでもあるが、だからこそ、小さな店の中から世界を見てきたソーダ売りの親爺にも世界の実相が見えるのだ。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ソーダ売りの親爺は言う、「外の世界もここと同じだ。ソーダを飲めば金を払う。だが後になって『なんで俺が?』なんて言う奴が居るんだな」。法律というルール、軍隊の規則、プロボクサーの規約。これらのルールについて、まさに「後になって」から、それが許されない行為であるという事実に直面するロッキー。ルールとは一つの強制だが、ロッキーにとって最初で最大の強制は、幼い頃に父から受けた、理不尽に厳しいボクシング練習だ。だがその父は、なんと、ロッキーが唯一心を許す存在である母から、ボクシングは辞めてと強いられた結果、飲んだくれの乱暴者になってしまったのだった。

ロッキーは結局、ルールに抗おうとしてルールに取り込まれ、父に逆らおうとしながらも父の代わりにリングに立っただけなのかもしれない。彼が、人を殴る事だけが得意な男になったのも、腕っ節しか頼れないような状況に彼を追い込んだ父や世間のせいなのかもしれない。だが、新聞に醜聞を書き立てられて故郷に逃げ戻ったロッキーは、一度ボクサーとしての栄光を得たからこそ初めて、自分が生まれ育った町の悲惨な状況、犯罪を繰り返して生きる事の惨めさが見える。この逃げ場の無い世界の中で何事かを成し遂げるには、与えられた条件を最大限に利用して闘うしかないのだ。

(評価:★4)

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