[コメント] ザ・レイド(2011/インドネシア)
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敵役のマッド・ドッグが実にいい。銃が嫌いで徒手格闘にこだわるマッド・ドッグさんは、悪役によくある、理由もなく無闇やたらと強いキャラクターではない。誰よりも背の低い彼は、ダメージも負うし苦戦もする。ただ劇中に登場する誰よりも「ちょっとだけ強い」ように描かれている。
この映画、名も知らぬ無表情のインドネシア人たちが延々とシバキあう攻防を見ているうちに、相手より「ちょっとだけ強い」ことが全てなんだ、それが全ての明暗を分けるんだということが理解できるように設計されている。相手より判断がちょっと早いこと、相手より蹴りがちょっと強いこと、相手より思いきりがちょっといいこと、相手より立ち上がるのがちょっと素早いこと。それはほんの小さな差かもしれないんだけど、闘い続けるうちに否応なしに動かしがたい大きな戦力差となって露わになり、決着に至る。マッド・ドッグさん対SWAT隊長のタイマンは、めまぐるしい格闘の中でこの微妙なニュアンスが実に豊かに表現されており素晴らしい。あの男前のSWAT隊長、インドネシアの柔道の強豪選手だそうですよ。いいですね。
クライマックスで、マッド・ドッグさんは主人公たち2人と闘う。あの3人は、全員がモノホンのプシラット(シラット使い)だそうですよ。ますますいいですね。マッド・ドッグさんは例によって、2人それぞれよりもちょっと強い。ゆえに彼は遺憾なく実力を発揮し、獅子奮迅の働きで2人をボッコボコにする。そのうえで2対1の不利が順当に彼を追い詰めてゆき、ついには順当に最期を迎える。この美しさには、感動すら覚える。作り手が映画と同じかそれ以上に武道(この場合はシラット)を愛しておらねば、こうはならないのである。すぐれた格闘アクション映画には、このような美学、思想が必要不可欠なのだ。『ザ・レイド』は低予算アクション映画としては普通に工夫満載の佳作だと思うが、この思想なしには香港功夫片やトニー・ジャーの古流ムエタイと同等の評価は与えられなかっただろう。
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