[コメント] ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日(2012/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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インドで動物園を経営する一家が移住のために動物ごとカナダへ向かう途中、船が難破してしまい、救命ボートで少年と虎がしばらく漂流して生還するというお話。
<1 テーマ> 中心となるテーマは、逆境からの生還と、人と動物の心の交流といったところか。逆境からの生還モノで、動物を、しかも完全な敵ではなくて、捕食者の側面と、心の拠り所の2つの側面で取り上げる試み自体は面白い。
<2 表現手法> 表現手法で特徴的なのは、虎を始めとした動物のCG合成(と思われる)の自然さ、3Dならではの迫力感、嵐の怖さや朝焼け美しさを表現した映像。朝焼けの中、救助を要請するボトルレターを主人公が投げるシーンがあるが、黄金色の空を映す凪の水面と、小さく浮かぶボートと筏。静かに広がる波紋が実に美しい映像に仕上がっている。 動物の動きは自然で、かつ3Dならではの奥行き感が感じられた。最後の最後までCGであることを意識させないレベルでこれも素晴らしい。
主人公の少年時代を演じたのはスラージ・シャルマというインドの少年。インド俳優と言うと、笑顔で歌って踊って大乱闘のステレオタイプだが、運命に立ち向かう内省力と行動力が備わった少年としての演技がハマっていた。
<3 ストーリー> ただ、ストーリーとしては意味があるようで核心を突かない断片的なエピソードが積み重ねられ、最後のネタばらしも残念。映像表現の完成度の高さが、感動に結びつかなかった。
ストーリーは、ネタが欲しい小説家が、漂流を生き抜いて大人になったパイの回想を聞くという形で展開する。ラストでは、実はパイが話していたのは、より残酷な客観的事実を、動物が登場する物語としてフィクション化したものである、という解釈が暗示される。
物語に登場する動物も、実際にはそこに乗り込んだ人間同士の殺し合いのメタファーで、虎は少年自身の一側面という位置づけという訳。それを丁寧に聞き手の小説家がしっかりと言語化して解説してくれる。で、「which story do you prefer?」と来るわけです。つまり、客観的事実としては、こんな虎とかいませんでした、と。(私はそう解釈しました)
ただね、そんなネタばらしが最後にあった所で、別にカタルシスを感じられるわけでもなければ、ハッピーになれる訳でもないよなぁと。なんでこんなラストにしちゃったのだろうかと思う。ここまで素晴らしい映像表現で動物を再現してくれたのだから、それが信じれるようにして欲しかった。
パイの名前の由来がパリのプールであることや、叔父から泳ぎを教えてもらった話、インドでダンサーに恋をする話などが前半に次々出てくるが、そんなの肝心の生還エピソードには全然関係なかったじゃん。伏線張るだけ張って、放置かい。
肝心の虎のバックグラウンドについても、元々はサースティという名前だったが、書類の手違いでリチャード・パーカーという名前に変わったというエピソード。これもなんなんだか・・・リチャード・パーカーというのは、1884年に難破したイギリス船で、緊急避難として殺されて食べられてしまった給仕の少年から取ったのだと思うが、そんなの調べなければ分からないし、鑑賞時の感動につながらないのは作り手の自己満足ではないかと思う。
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