[コメント] 東京五人男(1945/日)
本編ファーストカットは富士山の書き割りを背景にして汽車が走るというものだが、すぐに模型と分かるショットだ。ちなみに、終盤のクライマックスは水害のシーンで、家(バラック)が流され、崖を滑る様子をミニチュアで見せる特殊効果のシーンなのだ。
タイトルの5人とは、横山エンタツ+花菱アチャコのコンビと、古川緑波、石田一松、柳家権太楼。皆、冒頭の汽車に乗って関西方面から東京(渋谷桜丘周辺)へ帰って来た、というのが出だしだ。エンタツとアチャコは、家(バラック)に帰ると、「忌中」の貼り紙。死んだものと思われていた、ということだが、アチャコの嫁は田中筆子。エンタツの女房は戸田春子だろう。アチャコは日比谷行き都電の運転手になり、エンタツは、その車掌だが、女性の車掌も同乗しているようで、役割がよく分からない。中盤で鐘(車中の呼び鈴)の鳴らしあいのコメディパートがあるが、イマイチ面白くない。彼らに比べ、石田は桜丘総合配給所、権太楼が国民酒場といった公営の配給施設で働くことになり、官僚仕事批判や、さらに、鳥羽陽之助演じる資本家(元軍需工場の社長らしい)との癒着や不正が暴かれる、といったパートにはそれなりの面白さがある。
また、ロッパは一人だけ、田舎の農家を回って買い出し(物々交換)をするシーンが繋がれる。中では、高勢實乗が、がめつく蓄財をしている農家のオヤジとして出て来る場面が興味深い。お札で作った紙飛行機を飛ばす子供から始まり、ピアノや沢山の腕時計を見せつけられる。高勢はいつものメイクで、強烈な存在感だ。対して、優しい農家として高堂国典が出て来て、高堂からは、沢山の芋をもらう。
全体に、東京渋谷あたりの敗戦後の焼け跡の記録として貴重な映像だとは思うが、映画的な画面は希薄。あるいは、喜劇として、ぶっ飛んだ演出も希薄だと感じた。もっとも良いシーンと思ったのは、ロッパが息子と一緒にドラム缶風呂に入り、「私の青空」を唄うシーンか(そのあとエンタツとアチャコが2人抱き合って入る)。あとは、石田が自転車に乗りながらノンキ節を唄う場面の移動撮影。ショット単体だと、こゝが一番いいと思った。
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