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[コメント] 王になった男(2012/韓国)

傑作と思う。巧いだけ。とも思うが、歴史の真実や、物語の真実ではない、映画表現の真実みたいな力を感じる。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 サウォルの身上を思うだけで今もうるりと来る。かの国には、この時代にも奴婢なんていたのか?とか思うが、そんなこと関係ない。いたと言うのだからいたのだ。

 そして“王”が、絶対にお前の母親を探し出してやる、と言葉をかけてくれたとき。サウォルは大粒の涙をこぼしながら、「居場所だけでも分かれば、ありがたく存じます」と答えるのである。よもや会えるはずはないのだ。“王”はその場しのぎで言ったに過ぎないかもしれないのだ。でも“王”の心遣いのありがたさ。本当に、無事に生きているかどうかだけでも分かればー。

 だが白眉はこのあとだ。サウォルが、“王”のために命をなげうって、毒を食べてしまう一連のシーン。間違いなく、この瞬間、彼女にとって“王”は本物の王だった。そしてサウォルはこう言う。王様、末長く、生きてくださいー。

 この心情。

 でもまだ白眉でない。急速に命の灯を失っていくサウォル。彼女を抱き抱えて医務室(?)へ運ぶ“王”。首を振る医師(薬剤師?)。そして、この一連のシーンを目の当たりにした女官。サウォルに王の毒殺をそそのかし、そばに控えて彼女の行動を監視していた、女官。この役名さえよく分からぬ女官が、サウォルの死で怒りと悲しみが頂点に達した“王”に「誰がサウォルに命じたのだ!?」と言われたとき、ほかに何がいまこの場で自分がなすべき正しい行動か、まったく思い浮かばなかったのだろう、でも真実を述べたのだからあらゆる意味で彼女にとって正しい行動だったのだが、自分に王の殺害を命じた役人の名を挙げてしまうー。

 ぬぬ。わが国こそ、昔からずっと、忠義だの、義死だの、義士和人伝(←違う)だの言い続けてきた国のはずだが、こういうのはドラマで見たことない。こういうドラマは見たことない。

 確かにイ・ビョンホンの演じ分けは凄かった。神々しいまでだった。だが同じ神々しさは、ついこの前、『家光と彦左と一心太助』の中村錦之助で見たばかりだ。これは多分に役者の力量である。

 王の神性、君主の聖性、そういうものを見せられた思いだ。ぬぬぬ。

 終末はイマイチだった。結局“彼”は王にならなかったが、これが仮に王になっていたとしても、やはり後味は悪かったろう。だからこれは、この映画を物語として見たときの限界だ。だが、かの一連のシーンは、これまでの忠君ドラマが皆、表面的に思えるぐらいの“真実をえぐっている”感だった。

85/100(13/10/27見)

(評価:★4)

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