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[コメント] キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け(2012/米)

金持ちであり続けるには、リチャード・ギアスーザン・サランドン並みの演技力が必要なのかもしれないと思わされた。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ミラー(リチャード・ギア)がこれから演説を始めるという場面で映画は唐突に終わる。映画として描くべきことはここまでで描ききった、これ以上描いたとしてもそれは余録や蛇足に過ぎないという、大層潔い態度である。と同時に、この終わり方そのものが、この後の彼の身に起こったことを示唆している。もう、これ以上の「どんでん返し」はないのだ。

 投資銀行の保身的な頭取は、業務に献身的な部下が勝手に行った「二次監査」により、買収企業の巨額の決算粉飾の疑惑が示されたところで、買収を取り止める意思はない。何故なら、これは公式の記録ではないし、部下自身が自らの職務として正式に買収中止を進言したりするのでない限り、彼自身の判断や行為に株主等から非難される要素はないからだ。

 もちろんミラーは、妻・エレン(スーザン・サランドン)から持ち掛けられた「取引」に署名した。自分に遺される取り分がまったく無いと、「絶対に署名なんかしない!」との感情的な反応を示した場面までは描かれたが、冷静になれば、これ以上に自分の身を守る術はないと理解できるのがここまで描かれたミラーというキャラクターである。世間の冷酷さを知りつつも、自身の能力をも過信するミラーは、妻に言われた通り「また一から出直す」のも悪くないと殊勝にも考えたのかもしれない。

 したがってブライヤー刑事(ティム・ロス)は、ミラーをしょっぴくために決定的な証拠となり得たエレンからの証言を得ることはできなかった。何事も金で解決する胸くそ悪い富豪たちが、自らボロを出すのを待つしかない、通常の刑事生活に立ち戻るしかなかった。黒人青年を脅して自白を強要するために、料金所の通行写真を捏造した行為が罪に問われることがなかったら、の話だが。

 娘・ブルック(ブリット・マーリング、初めて見た。お綺麗な方でした)は、最後の演説場面で父に接した態度から見れば、その表面的な言葉には反して、師としても、友人としても、父としても、素直な尊敬の念を抱くことはできなくなったろう。とは言え、世の冷酷さを知って、胸くそ悪い富豪たちへの道を歩み始めたのかもしれない。母に言われたように、「自分が正しいと信じたことをする」ことはなかったのだから。人間とは、所詮そういう存在だ。金持ちならばなおさらである。かもしれない。

 もしかしたら、この後のスピーチで、ミラーが自分の罪を告白したと考えることはできるかもしれない。だって、会社の売却にはなんの影響もないと分かったわけで、それなら決算粉飾も罪に問われることはないわけだし。愛人の死は事故死だし、自分が意図的に手を下した訳ではないし、それなら法的には4年程度の罪に問われるぐらいだし。でも本作が、彼というキャラクターのために、そのスピーチまで描く必要はないと考えたのは、一つの判断だったと思う。

 正しいことをする人間が(主要な登場人物に)一人もいない本作だが、にも関わらず「これが人間の世の中だよな」と思わせられてしまうのは何故だろう。最後まで、どういう展開になるのかと関心を引かれつつ観続けたが、それでも★4つまでつける気にはなれない。そのあたりが自分という人間なのだろう。

75/100(24/5/26ユーチューブ)

(評価:★3)

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